いま私たちは、めまぐるしく変化する状況に応じて「即断即決」を求められる場面が多い。しかし、ここぞというときには「じっくり考える」ことが不可欠だ。
そこで役立つのが、自分の頭で「深く考える」クセを身につけ、論理的思考力や創造性を高めるノウハウが満載の、関西大学総合情報学部・植原亮教授の新刊『遅考術――じっくりトコトン考え抜くための「10のレッスン」』。
今回は、思考のエラーを防ぎ、よりよい仮説や結論を引き出すスキルを植原教授に伝授していただいた本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)より、講演の模様を全2回のダイジェストでお届けする。(構成/根本隼)
「本当に頭のいい人」が知っている、因果関係を一発で見抜く方法
植原亮先生:因果関係を正しく把握するには、「対照実験」という科学的なメソッドが必要です。
対照実験とは、調べたい条件を与えた「実験群」と、調べたい条件だけを除いて他の条件をそろえた「対照群」の2グループを用意して、それぞれの実験結果を比較する手法です。
たとえば、「ある結果をもたらす原因は条件rだ」という仮説を検証したい場合は、条件p,q,r,sを与えた実験群と、条件rだけ与えない対照群を用意します。図にすると下記のようになります。
この実験によって、条件rがあるときだけその結果が生じると分かれば、別の要素が原因になる可能性はあらかじめ排除しているため、「結果を引き起こした原因はrだ」と確証できるわけです。
宿題と学力向上の関係を考える
より具体的な例で考えてみましょう。「宿題による学力向上効果の有無」について調べる場合、宿題以外の「元の学力」や「通塾の有無」といった条件をそろえて対照実験を行なえばよいので、図式化すると以下のようになります。
このケースでは、宿題を出したときのみ学力の向上が見られるため、「宿題なしには学力が向上しない」という結論を導き出すことができます。
「プラシーボ効果」の影響を除外するには?
対照実験で注意しなければならないポイントがあります。それは、薬効がなくても一定の治癒効果が出る「プラシーボ効果」です。
例えば、「サプリを飲んだおかげで熱が下がったかどうか」を検証するケースを考えてみてください。もちろん、「飲んだら熱が下がったので、サプリには薬効がある」と安直に決めつけてはいけません。よく寝たことが原因かもしれませんし、たまたま回復期だっただけかもしれません。
しかし、対照実験をするにしても、「サプリを飲んだ場合/飲まなかった場合」の比較では不十分です。サプリに薬効があったのか、それともプラシーボ効果が出ただけなのか分からないからです。では、どうすればサプリの効能を確認できるのでしょうか?
プラシーボ効果はどうしても出てしまうので、比較する2つのグループにそれぞれ「何かを飲ませる」必要があります。したがって、実験群にはサプリを与え、対照群には薬効が全くないブドウ糖の錠剤を与えて比較します。
実験の結果が上図だとしましょう。この場合、どちらのグループでもプラシーボ効果が出ていますが、サプリが本当に有効な場合には、プラシーボ効果を上回る効き目が実験群で出るはずです。このような対照実験を行なえば、プラシーボ効果の影響を除外して、薬効の有無を正しく確認することができます。
(本稿は、ダイヤモンド社「The Salon」主催『遅考術』刊行記念セミナーのダイジェスト記事です。「The Salon」の公式Twitterはこちら)