いま私たちは、めまぐるしく変化する状況に応じて「即断即決」を求められる場面が多い。しかし、ここぞというときには「じっくり考える」ことが不可欠だ。
そこで役立つのが、自分の頭で「深く考える」クセを身につけ、論理的思考力や創造性を高めるノウハウが満載の、関西大学総合情報学部・植原亮教授の新刊『遅考術――じっくりトコトン考え抜くための「10のレッスン」』
今回は、思考のエラーを防ぎ、よりよい仮説や結論を引き出すスキルを植原教授に伝授していただいた本書刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)より、講演の模様を全2回のダイジェストでお届けする。(構成/根本隼)

「本当に賢い人」と「賢そうに見えて実は浅い人」の決定的な差とは?植原亮先生

人間は因果関係を見つけるのが「得意すぎる」

植原亮先生:2つのできごとが、「原因」「結果」という関係で結びついているのが因果関係です。

:ボールが窓に当たった。
:窓ガラスが割れた。

 例えば、上記のような2つのできごとが並ぶと、私たちはすぐさま「ボールが窓に当たったから、窓ガラスが割れた」と連想できます。人間は、因果関係を見つけ出すのが非常に得意なんです。しかし、時には因果関係を見つけるのが「得意すぎる」ために生じるデメリットもあります。次の例を見てみましょう。

:きのこを食べた。
:おなかを壊した。

 多くの人は、この2つのできごとを見ると「きのこを食べたから、お腹を壊した」と早合点します。相次いで起こった事象の間に、無意識に因果関係を見出してしまうからです。

 しかし、きのこを食べる前に「C:裸で寝ていた」というできごとがあったとすると、AとCのどちらがBの真の原因かすぐには分かりません。

「本当に賢い人」と「賢そうに見えて実は浅い人」の決定的な差とは?

「きのこを食べた」という目立ったできごとがあると、ついそれが原因だと早とちりしてしまいますが、因果関係を正しく理解するには「他に原因はないだろうか」と検討しなければならないのです。

人間の頭に備わっている2つのシステムとは?

 人間の頭には、2つのシステムがあると言われています。システム1が「直観」(オートモード)です。これは思考の速度が早く、パターン認識にすぐれ、自動的かつ無意識的に働くものです。

 システム2が「熟慮」(マニュアルモード)です。こちらはじっくりと思考するプロセスで、規則に沿った計算や推論を行ないますが、意識的な努力や訓練をしないと身につきません。

 先ほどの例だと、「きのこが原因だ」と直ちに断定するのが直観のシステム、これに対して「別の原因があるかもしれない」と立ち止まって考えるのが熟慮のシステムです。

 直観だけで真の因果関係を把握できるとは限らないので、熟慮のシステムを駆使してさまざまな可能性を吟味する必要があります。自分が思い出しやすいことがらを、実際に起こる確率が高い、発生件数が多いと思い込んでしまう「利用可能性バイアス」にも注意してください。