いま、なぜ民主主義の歴史を学ぶのか?

――民主主義から専制主義に傾いていく世界の中で、改めて民主主義の歴史を学ぶ意義とはどういったことでしょう。

岩本 現在、民主主義に対する懐疑的な見方が広がっているからこそ、民主主義の歴史を改めて学ぶ意義があると思っています。民主主義の基本的な仕組みは学校で学びますが、その歴史をご存じの方は多くはないでしょう。実のところ、民主主義の形態は時代とともに大きく変わっています。本書ではまさにそれを知ることができます。

 つまり、今の時代の人々もこれまでの民主主義の形を厳守する必要はないのです。本書は一貫して民主主義を擁護する立場を取り、民主主義こそが人類が発明した最も強力な武器だと伝えています。しかし、それは普遍で強固なものではなく、国の状況によって変容する、しなやかさを持ったものだということも本書が主張するところなのです。

――民主主義に対する不満が高まっているのは、単に既存の民主主義の形式が時代、あるいは国とマッチしていないからということでしょうか。

岩本 はい、時代に合わないのであれば、時代に合うように変えていけばいい。また、その国ならではの発展を遂げてもいいということが著者の主張だと思います。本書を読んで、民主主義の変遷を知れば、そうした意識が高まり、専制主義に目移りし、極端な方向へ暴走するのではなく、「民主主義の形式を変えていけばよい」という柔軟な考え方ができると思います。

 ただ、「まやかしの民主主義」に対しては、注意をしてほしいです。例えば、トルコのエルドアンやロシアのプーチンなどの独裁者は、人民の同意に基づいて独自の民主主義を実践していると主張しています。しかし、実態は国民生活にまで入り込み、監視し、権力に抗う者を屈服させようとしています。民主主義のお題目の下、専制主義が生まれうることを私たちは常に理解しておかなければいけないでしょう。

――確かに、「民主主義」と一言で言っても多様な形態がありますよね。国によって、多様な形がありうることを理解するのに本書は役立ちそうです。

岩本 おっしゃる通りです。例えば、紀元前のアテネの民主主義はいわゆる直接民主主義でした。プニュクスという丘に全ての市民が集まって、みんなが顔をそろえて政治や政策について語り合い、方針を決めていったのです。

 一方、国家の規模が大きくなるにつれて、市民全員が集まって議論するのは現実的に難しくなりました。そこで生まれたのが、いわゆる代議制民主主義という近代多くの国々が採用している形式です。これは、有権者が選挙で代表者を選んで、その代表者が国民に変わって政治や政策について話し合う民主主義の形態です。

――最初から代議制民主主義ではなかったのですね。民主主義の歴史の初期の段階から、大きな変容が起きていることがわかります。では、現在の民主主義の傾向とはいかなるものなのでしょう。

岩本 本書でも述べられていますが、現在は議会や政党だけではなく、NGOなどの草の根の団体が権力の監視役としての力を強めており、民主主義の裾野はますます広がっています。

 例えば、環境保護団体のグリーンピース。環境問題を政府に頼るのではなく、直接意見を発表したり世論をリードしたりして、具体的な活動の力を持つようになっています。本書では、こうした様々な団体が、政府や大企業などの権力組織を監視・牽制する仕組みを「牽制民主主義」と名付けています。この「牽制民主主義」は新しい概念で、今後より注目が集まっていくでしょう。

 今回お伝えしただけでも、民主主義が多様であることはご理解いただけたはずです。この状況を理解できれば、民主主義に対してただ不満をためこむのではなく、時代に合った民主主義の形式に変えるように主体的に関わっていこうと、前向きな機運が高まるのではないかと期待しています。

【大好評連載】

第1回 【ウクライナ、台湾、アメリカの分断…】世界同時的に民主主義が劣勢に陥った根本理由
第2回 日本人が知らない民主主義トリビア公開!
第3回 「民主主義の理解」がビジネスパーソンの必須能力になってきた特殊事情
第4回 「普通選挙が民主主義のゴール」と思う人、思わない人の決定的な差

だから、この本。