全世界で700万人に読まれたロングセラーシリーズの『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からの世界史』(ワークマンパブリッシング著/千葉敏生訳)がダイヤモンド社から翻訳出版され、好評を博している。本村凌二氏(東京大学名誉教授)からも「人間が経験できるのはせいぜい100年ぐらい。でも、人類の文明史には5000年の経験がつまっている。わかりやすい世界史の学習は、読者の幸運である」と絶賛されている。その人気の理由は、カラフルで可愛いイラストで世界史の流れがつかめること。それに加えて、世界史のキーパーソンがきちんと押さえられていることも、大きな特徴となる。
そこで本書で登場する歴史人物のなかから、とりわけユニークな存在をピックアップ。一人ずつ解説していきたい。今回はルネサンス期のイギリスで絶頂期を築いたエリザベス1世を取り上げる。現代イギリスの基礎を築いたともされるエリザベス1世は、どんな点で優れていたのか。ベストセラー『ざんねんな偉人伝』の著者であり、著述家・偉人研究家の真山知幸氏に寄稿していただいた。

【イギリス史上最も偉大な君主】エリザベス1世が「リーダー」として大切にしていた1つのことPhoto: Adobe Stock

エリザベス1世はなぜ名リーダーなのか?

 2022年9月8日、イギリスは大きな悲しみに包まれました。

 実に70年にもわたって在位したエリザベス2世が死去。私邸の一つである、スコットランドのバルモラル城で、96歳の生涯を静かに終えることとなりました。

 9月19日の国葬には、約2000人の参列者が参加。外国の国家元首や高官が約500人も訪れたことが、その影響力の大きさを物語っています。

 エリザベス2世が即位したのは1952年のこと。それ以降、これまで単に「エリザベス女王」と呼ばれていたかつての女王には「エリザベス1世」という呼び名がつきました。

 エリザベス1世の名は、とりわけイギリス史に詳しくなくとも耳にしたことがあるでしょう。

 エリザベス1世は子を残していないので、エリザベス2世は直系の子孫にはあたりませんが、二人は「イギリス史上最も偉大な君主」という共通項で語られることがあります。

 イギリスの黄金時代を築いたエリザベス1世は、どんな点で優れていたのでしょうか。

 エリザベス1世が即位するまでは「エリザベス」、即位後は「エリザベス1世」と表記しながら、彼女のリーダー像を紹介していきたいと思います。

15歳のときに手紙で身の潔白を訴えた

 エリザベスは2歳半ばにして、母アン・ブーリンを亡くします。

 それも父ヘンリ8世の思惑によって、母のアンは逮捕されて処刑されてしまったのです。

 なぜ、そんな暴挙に出たのか。

 王位を継承させるべく男の子がほしかったヘンリ8世は、新しい別の王妃と結婚したいと考えます。

 そのため、アンが邪魔になったのでした。

 実は、ヘンリ8世は最初の妻キャサリン・オブ・アラゴンも、男児の世継ぎが生まれなかったことから婚姻関係を解消し、若きアンに走った経緯があります。

 今度はアンのほうが捨てられることになったわけです。結局、ヘンリ8世はアンも含めて6人と結婚し、そのうち2人を処刑しています。

 そうしてようやくヘンリ8世がもうけた唯一の男児が、エドワード6世です。

 エドワード6世が9歳で即位すると、伯父のサマセット公が摂政として実権を掌握。エリザベスとは関係のないところで、政治がどんどん進んでいくかに見えました。

 しかし、ヘンリ8世の死去後すぐに、サマセット公の弟トマス・シーモアが前王妃キャサリン・パーと結婚。翌年にキャサリンが出産で死去すると、トマスはエリザベスとの結婚を望んでアプローチし始めました。

 そんな折、トマスが兄に対して陰謀をたくらんでいたことが発覚。処刑されてしまいます。

 すると、トマスの陰謀に15歳のエリザベスも関与していたのではないかと、あらぬ疑いがかけられることに……。

 驚いたエリザベスは、直筆の手紙をサマセット公宛てに書いて送付。必死に身の潔白を証明し、なんとか事なきを得ています。

ロンドン塔に幽閉されて命の危険

 とんだとばっちりを受けたエリザベスですが、苦難は続きます。

 エドワード6世が16歳の若さで死去すると、姉のメアリが女王に即位。メアリ1世となります。

 メアリ1世にとってエリザベスは義妹にあたります。

 そのため、次の王位継承者はエリザベスということになります。

 自分を脅かしかねない芽は早めに摘むべしと、メアリ1世は動きます。エリザベスはまたも「反乱に加担した」というあらぬ疑いをかけられてしまったのです。

 ロンドン塔に幽閉されたエリザベス。ここに送られた者の多くが処刑されていることを思うと、絶望的な気持ちになったことでしょう。

 しかし、メアリ1世はエリザベスが反乱に協力したという証拠をでっちあげることができず、エリザベスはなんとか命拾いしています。