かつては、終身雇用に守られ安定した仕事につくことがよしとされていたが、時代は大きく変わっている。企業側も、働く人たちの価値観の変化に合わせ、変化を求められている。
2000年代のマイクロソフトは社内競争が大変厳しく、ライバルは同僚だった。
しかしその間に、Googleやアマゾンが革新的なサービスを生み出して急成長を遂げ、マイクロソフトは長期不振に陥ってしまう。そうしたなか、南インド出身のサティア・ナデラ氏をCEOに迎え、マイクロソフトは全面的な組織改革をおこなった。
「顧客が抱えている真の問題点を解決するために、幅広くパートナーと協調することが、われわれの義務だ」とし、かつての社内競争ではなく協調・貢献の精神を貫く企業文化を形成し、時価総額1位を奪還。復活を遂げたのだ。
もはや、一人で成功する時代は終わった。これからは競争よりも助け合いの時代なのだ。
マイクロソフトでアジアリージョンマネージャーとして活躍する著者が、今どきのビジネスパーソンが望む働き方について解説する。
ミレニアル社員たちが選ぶ
「理想的な職場の条件」
ある経済誌の調査によると、韓国内のミレニアル社員たちが選ぶ「理想的な職場の条件」の第1位は「ワークライフバランスの充実」(49%)であり、もっとも少数だった「定年までの保障」(12%)とは4倍もの開きがありました(「ミレニアル社員の半数、理想的な職場の条件第1位はワークライフバランス」、『ファイナンシャルニュース』、2020・01・02参照)。
※ミレニアル世代とは、1980年前半~2000年代初頭生まれの世代のこと
拡大画像表示
ここで言われている「ワークライフバランスの充実」というのは、彼らが「絶対に残業しない」「昇進には興味ない」と言っているのではありません。
終業後の時間を、一日中顔を突き合わせている社内の人間との飲み会に当てるより、興味のある勉強や運動、趣味など自分を高めるための時間に使いたいという意味です。
さらには結婚や出産も会社に縛られることなく、すべて自らの選択肢のひとつとしてその選択に責任を持ちたいという考え方なのです(「[big story]私と私たち、ゆるくつながればもっと幸せ」、『MONEY』、韓国経済マガジン発行、2020・02・25)。
いかがですか? 定時を過ぎても上司の目を気にして退勤できなかったそれまでの世代とは、明らかに意識が違うと思いませんか。もちろんすべてのミレニアル世代がそうではありませんが、それでも、物心ついたときからインターネットのある情報化社会を生きてきた彼らは、情報収集力ひとつにしてもそれまでの世代とは別次元。
経験する前からあまりにも多くのことを知りすぎているため、たとえ会社に入っても、人生のすべてをそこに捧げることには消極的です。そんな彼らが、自らの武器であるデジタル活用力を駆使してスタートアップ企業を立ち上げたり、個人事業主となって、停滞する市場に素早く切り込んでいるのが現状なのです。
日本以外のOECD加盟国で
自ら非正規雇用を選ぶ若者が急激
「将来の目標は、今の会社で5年ほど働いて基礎をしっかり身に付けた後、退職して起業することです」
先日、若手社員が集まるスタディサークルに同席する機会がありました。
実力とセンスを十二分に兼ね備えたミレニアル世代たちの発言が聞ける貴重な場でしたが、超難関の一流企業に勤める若手社員が、将来の目標だとして語ったこの発言を聞いたときには面食らいました。
社内での昇進レースにははなから参加せず、じっくり準備して自らビジネスを興すつもりだと堂々と語るものですから。
日本を除くほとんどのOECD加盟国では「ギグエコノミー(Gig Economy)」と呼ばれるシェアリングエコノミー(共有経済)やYouTube、アマゾンなどのプラットフォーム企業の成長の勢いに乗り、自ら非正規雇用を選ぶ若い世代たちが急激に増加しています。
時勢の影響はありつつも、韓国はもちろん、これらの国々の青年たちの半数は自らの意思で会社員以外の道を選択しているのです。
それを証明するかのように、Eラーニングのプラットフォームは「YouTubeで儲ける」「ブログで稼ぐ」「アマゾン的オープンマーケットで稼ぐ」「ひとり会社の運営法」といった関連動画であふれかえっています。いずれも、息苦しいサラリーマン生活を抜け出して自由な収入源を創出しようという、成功事例やノウハウを紹介する内容のものです。
今こそ、会社が変わらなければならない
問題なのは彼らではなく、毎日不安と虚しさでいっぱいの割には、旧態依然の社風にどっぷり浸かったまま変化には消極的という、ごく普通の人々のほうです。
ですがもし、組織の中に、自ら進んで革新できたり、専門家として成長できるような機会があったならどうでしょう? きっと多くの人がわざわざ転職して外部にチャンスを求めたりせずに、今置かれた境遇で会社とともに成長しようとするはずです。そこで自分の専門性が高められれば、もし会社を辞めても次の機会を探しやすくもなります。
だからこそ、会社が変わらなければならないのです。
人材を預かる会社側が社員個人の成長に無関心のままでは、結局は会社にとって有益な人材から先に離れていってしまうからです。革新や成長のチャンスが少ない組織に、誰がポジティブな未来を期待できるでしょうか。
「仕事ができる優秀な人材を採用しても、数年後には必ず辞められてしまうんです」
とある企業の人事部長の、ため息交じりの訴えが思い出されます。
社員たちは会社生活に幸せを感じることなくいつでも辞めたいと悩み、会社側はそうした社員たちをどう導いていくべきか手をこまねく。もはや社員も会社の考え方も、一昔前とは確実に変化しています。
雇用主と非雇用主という主従関係は、この先どんどんフラットになっていくでしょう。
そこで求められることとは? そんな新時代にあるべき職場の関係を、私たちは再構築する必要があるのです。
(本原稿は、イ・ソヨン著『パートナーシップ PARTNERSHIPーマイクロソフトを復活させたマネジメントの4原則』を編集・抜粋したものです)