徹底した少人数制授業で「対話」をとことん大切にし、子どもの主体性を引き出す。従来の教育では両立が難しいと考えられてきた「探究型学習」と「受験」の両立を掲げ、ほぼ全員を志望校に進学させてきた学習塾「知窓学舎」。塾長・矢萩邦彦氏の新刊『子どもが「学びたくなる」育て方』の中から、壁にぶつかった子どもに力を与え、前向きにする「親の声かけ」のコツを紹介します。(構成/編集部・今野良介)

子どもにかける言葉、次のどれが適切?

突然ですが、学校や塾で評価されず、やる気を失っていたり悩んでいる子どもにかける言葉として、どれが適切だと思いますか?

① 私はあなたが一番できがよかったと思う
② あなたは評価されるべきなのに、おかしいね
③ まるで◯◯(偉人や有名人など)みたいだったと思うよ
④ まあ、先生の評価なんて大した問題じゃないよ
⑤ あなたは才能があるからきっと大丈夫
⑥ あなたはまだ評価されるレベルではなかったんだね

それぞれの言葉が子どもにもたらす影響について考えてみましょう。

【中学受験のプロが教える】学校や塾で評価されずやる気をなくしたわが子にかける言葉、どれが適切?ちょっと、想像してみてください。 Photo: Adobe Stock

① 私はあなたが一番できがよかったと思う

これは、「共感」に依存するマインドにつながるおそれがあります。

「よかった」という言葉を信じれば、よかったのに評価されなかったという現実があるため挫折から立ち直れないし、努力につながらないので、上達もしません。

また、この親の言葉を信じなかったとして、それを優しさだと感じて頑張ろうという感性ならよいものの、そうでなければなぜそんな噓をついたのか悩む可能性もあります。

② あなたは評価されるべきなのに、おかしいね

「評価されなかったことに問題がある」というマインドを持たせる可能性があります。

評価されないことを他人のせいにするようになり、努力をしなくなるおそれがあります。

③ まるで◯◯(偉人や有名人など)みたいだったと思うよ

偉人や有名人は実は大したことはないのではないか、と低く見積もる可能性があります。

目標や憧れを持つことは成長の促進につながりますが、それはある程度現状の自分の実力からは離れているという認識が必要です。

④ まあ、先生の評価なんて大した問題じゃないよ

先生だけでなく、社会や組織を軽く見るようになるおそれがあります。

社会や組織では協力することが何よりも大事ですし、そのためにはリスペクトの精神も重要です。

自分一人では解決できない問題に立ち向かうためにも、多少不条理だと感じたとしても、一つの客観的な評価として受け入れる必要があります。

⑤ あなたは才能があるからきっと大丈夫

自分に才能があるなら努力は必要ないと思うかもしれませんし、うまくいかなかったら「自分には才能がないから仕方ない」と努力せずに諦めてしまう可能性があります。

⑥ あなたはまだ評価されるレベルではなかったんだね

一見冷たい言い方ですが、人間関係ができていて、言い方を調整できれば、「今はまだまだだけれど努力次第で評価されるようになる」というマインドを育むことができます。

シンプルな例で説明してきましたが、親子の間にどれくらいの信頼関係が築けているかで、親から子への言葉の影響は変わります。

親が「どんなつもりでその言葉を発しているのか」がいちばん大きく影響するのです。

つまり、普段から対話する大人が日常的に発する言葉で、子どもたちのマインドはつくられていくのだということは意識しておきたいところです。(了)

※参考文献:『マインドセット「やればできる!」の研究』キャロル・S・ドゥエック・著、今西康子・訳(2016年1月/草思社・刊)

矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ)
「知窓学舎」塾長、実践教育ジャーナリスト、多摩大学大学院客員教授、株式会社スタディオアフタモード代表取締役CEO
一児の父。親の強い希望で中学受験をしたものの学校の価値観と合わず不登校になり、学歴主義の教育に強い疑問を抱えて育つ。1995年、阪神・淡路大震災の翌日に死者数で賭け事をしている同級生を見てショックを受け、教育者の道を歩み始める。大手予備校で中学受験の講師として10年以上勤め、2014年「すべての学習に教養と哲学を」をコンセプトに「探究×受験」を実践する統合型学習塾「知窓学舎」を創設。教師と生徒が対話する授業、詰め込まない・追い込まない学びにこだわり、「探究型学習」の先駆者として2万人を超える生徒を直接指導してきた。
受験を通して「学ぶ楽しさ」を発見することを目指して、子どもが主体的に学ぶ姿勢をとことんサポート。ライブパフォーマンスのように即興で流れを編集するユニークな授業は生徒だけでなく親も魅了する。多くの受験生を志望校進学に導き、保護者からの信頼も厚い。新しい教育を実践しようとする教師・学校からの相談も殺到し、多数の教育現場で出張授業、研修、監修顧問、アドバイザーなどを兼務。生徒たちに偏差値や学歴にとらわれない世界の見方を伝えるため、自身の学歴を非公開としている。
「子どもと社会をつなぐことのできる教育者」を理想として幅広く活動。住まいづくりや旅づくりの研究と監修、シンガーソングライター、カメラマンなどアートの領域から、ロンドンパラリンピック、ソチパラリンピックにジャーナリストとして公式派遣されるなど、一つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究。独自の活動スタイルについて編集工学の提唱者・松岡正剛氏より「アルスコンビネーター」の称号を受ける。「Yahoo!ニュース」個人オーサー・公式コメンテーター。LEGO® SERIOUS PLAY®メソッドと教材活用トレーニング修了認定ファシリテーター。キャリアコンサルティング技能士(2級)。Learnnet Edge『自由への教養』探究ナビゲーター・カリキュラムマネージャー。常翔学園中学校・高等学校 STEAM特任講師。聖学院中学校・高等学校 学習プログラムデザイナー。文部科学省「マイスター・ハイスクール」伴走支援事業スーパーバイザー。2022年10月、初の単著『子どもが「学びたくなる」育て方』を上梓。