学ぶ意欲の高い従業員
学ぶ意欲の低い従業員

学ぶ意欲の低い従業員の学習意識を高めるには?Twitter、WeWork、Udemyなどで組織開発をリードしてきた実践者が語るMelissa Daimler (メリッサ・ダイムラー)
Udemy CLO(Chief Learning Officer/最高人材・組織開発責任者)。人材マネジメントや組織開発の分野で20年以上のキャリアを有する。CLOとして、顧客と従業員、両方のための学習戦略を策定。「Re-Culturing」(組織文化の醸成)の第一人者で、数多くの企業上層部の支援を行っている。過去にAdobe、Twitter、WeWorkで学習・組織・人材開発部門を設立。2022年春に『ReCulturing:Design Your Company Culture to Connect with Strategy and Purpose for Lasting Success』(リカルチャリング:学習し続ける組織文化の醸成――いかに組織文化を戦略とパーパスに結びつけ、企業の持続的な成長を実現するか)を出版。組織文化をシステム思考という視点で捉え、組織文化のあり方について問題提起している。「リカルチャリング」について最も有名な思想的リーダーであり、実践者でもある。 写真提供:Udemy

ダイムラー そこを明確にできてこそ、継続的な学習が可能になるような組織文化の醸成が初めて可能になるからです。

「組織文化」という概念は、約70年前からあるものですが、きちんとした定義はいまだ定まっていません。そこで、学習分野のリーダーであると自負する私たちが、「組織文化」とは何なのかを、自分たちで明確にしていきたいと思ったのです。

 企業がリカルチャリングに取り組む際、その企業の組織文化を定義しなければなりませんが、その企業の「バリューは何か」を問うことからスタートします。イノベーションを起こしたい、という場合、そのイノベーションは会社のバリューにとって、どういう意味があるのかを考えるのです。

 そしてさらに問いを進めて、「バリューがこうだから、このような行動を取るのがふさわしい」というように、その企業のバリューに照らしたうえで、どのような行動をすべきかの「振る舞い」を具体的に考えていきます。

 従業員の学習について考える際、まずバリューとして、「会社はこういうふうでありたい」ということがあり、そのために「従業員としてはこういうふうに行動してほしい」というのが「組織文化」なのです。

 これを私たちは「How We Work」(どのように働くか)と呼んでいますが、この「会社としてのあるべき姿」と「従業員がどう行動すべきか」がつながることで、どのようなスキルが必要で、どのようにスキル開発・向上させるべきかが、明確になるのです。こういうサイクルによって組織文化も強化されていきます。

 たとえば私たちのUdemyを例に取ると、バリューとして、「Always Learning」(いつも学ぶ)があります。これを具体的な行動に分解すると、「お互いに建設的な議論を行う」ということになります。そうであるなら、従業員が学習すべきスキルは「組織内でどのようにディベートをするか」であり、「ディベートのしかたを勉強するプログラムを提供する」ということになります。

 バリュー、行動指針、具体的な学習プログラムは、一貫していなければならないのです。

――企業内には、学ぶ意欲の高い従業員がいる一方、学ぶ意欲の低い従業員もいます。そうした従業員の学習意欲を上げるには、企業側はどうすればよいでしょうか。

ダイムラー 学ぶ意欲のない従業員というのは、日本だけでなく世界中の企業が直面している問題です。

 私たちのカスタマー・サクセス・チームは、クライアント企業に直接関わり、従業員のリテンション(離職防止)が必要なのか、あるいは、クラウドやデータサイエンスなどの特定分野のアップスキリングが必要なのか、まず、その事業にとってどのような成果が必要かを洗い出します。それをはっきりさせたうえで、その目的に向けての学習戦略を定めていきます。

 同時に、具体的な将来にわたるラーニング・パス(学習の目標と到達ルート)を従業員ごと、あるいはチームに対して策定しています。それぞれの従業員は、自分は何を期待されているのか、自分がこれをやることでどんな成果が得られるのか、といったことが明確になるのです。従業員にとっても会社にとっても、目的と成果がはっきり見えてくるので、モチベーションが上がっていきます。

 その際、私たちはチームやグループで一緒に学ぶことを推奨しています。というのも、ひとりで学ぶより、「こういうことを学んだ」とメンバーと報告し合うほうが、それぞれの学び方や、「このスキルはこういうふうにも使えるね」などと、ひとりひとりの違った学習経験を共有できて学習効果はより高くなるからです。

――先ほど、「組織を総合的なシステムとして見る」といった話がありました。2022年春に『ReCulturing:Design Your Company Culture to Connect with Strategy and Purpose for Lasting Success』(リカルチャリング:学習し続ける組織文化の醸成――いかに組織文化を戦略とパーパスに結びつけ、企業の持続的な成長を実現するか)を上梓されましたが、この本では組織文化を「システム」という視点で捉えていらっしゃいます。これについて教えていただけますか。
 
ダイムラー 私は、組織というシステムは3つの部分から成ると考えています。