今なぜ、リスキリングだけではなく
リカルチャリングが大切なのか

メリッサ氏

ダイムラー 「組織文化」と「学習」を有機的に合体させたひとつのシステムとして見ていかない限り、今、どのようなスキルがこの会社に必要なのか、また、企業はどのような事業戦略を立てていくべきかが、はっきりしないからです。

 企業の戦略、組織文化、学習、これらがつながっていなければ、かつてのような、単体の「ただの研修」になってしまいます。組織文化と学習はシステムの一環として考える必要があるのです。そうでなければ組織全体に影響を与えることができないでしょう。

「リスキリング」と「リカルチャリング」は似たような概念であるともいえます。これだけ変化が激しい世の中なので、企業は常に進化し続けなければなりません。ということは、常に「どのような新しいスキルを学ぶべきか」を考えていなければならないということでもあります。

 2020年の世界経済フォーラムでは、今と同じ仕事を続けている場合に、2025年には今持っているスキルの約4割を入れ替えなければならないと報告されています。「企業の戦略」「組織文化」「学習」を併せて総合的に見ることが、会社が変化し、成長し続けるのに不可欠なのです。

――ありがとうございました。

組織が「リカルチャリング」を行うための
7つのステップ

book『ReCulturing:Design Your Company Culture to Connect with Strategy and Purpose for Lasting Success』(リカルチャリング:学習し続ける組織文化の醸成――いかに組織文化を戦略とパーパスに結びつけ、企業の持続的な成長を実現するか)

 本文でもふれたダイムラー氏の著書では、「リカルチャリング」(学習し続ける組織文化の醸成)を行うに当たって7つのステップが挙げられている。かいつまんで説明しよう(第1部第3章の表と説明文を参照)。

ステップ1 組織文化を設定する

 企業の目的と戦略に沿った組織文化を設定する。組織文化の設計がいかに重要であるか、組織文化がビジネスの成果と従業員体験にどのように影響するかを明確にする。

ステップ2 組織文化にまつわるデータを整理する

 過去の企業のデータ(採用データ、離職データ、エンゲージメント調査など)で設定した、組織文化にふさわしい行動に関係ありそうなものを見直し、企業が陥りがちなパターン、強み、ギャップ、従業員体験をどのように形成すべきかを特定する。

ステップ3 組織文化を行動指針によって定義する

 ステップ2で調査したデータや従業員のエピソードを活用して、組織文化にふさわしい行動指針の最初のバージョンを作成する。行動指針は15個以下に収める。単なる標語ではなく、実践しやすく、客観的に検証可能な指針にする。

ステップ4 行動指針のブラッシュアップ

 ステップ3で作成した行動指針を関係者で共有し、議論し、修正する。チームメンバー、従業員と面談し、この行動指針を事業のなかで効果的に実践する方法について話し合う。

ステップ5 行動指針の浸透

 新入社員研修など、行動指針を浸透させるシチュエーションを考えてみる。その行動指針をストーリーとして新入社員に説明できるか。新入社員がその行動指針を理解し、自分の中に取り込めるような方法を提示できるか。

ステップ6 行動指針の周知

 作成した行動指針のリストを従業員に配布して終わりではなく、会社は何を目標に動いており、そのために行動指針がどのように寄与するのか、従業員はその目標の達成のためにどのように働くのか、具体的なストーリーを交えて従業員に周知徹底する。

ステップ7 行動指針の日々の運用

 行動指針を事業のすべてのプロセスに組み込み、日々、その行動指針を実行しやすくしている状況や活動についてチェックする。どの行動指針が機能していて、どれが機能していないのか、どれが従業員に共感され、どれがされていないのか。行動指針の策定はゴールではなく運用し続けることが重要である。

 以上が、リカルチャリングのためのフレームワークである。

 さらに言えば、インタビューにあるように、ここで出てくる行動指針に沿った行動をするために必要なのが「学習」である。従業員が「何のために今この仕事をしているのか」「どのように取り組めば効果的なのか」「そのためには自分にどのようなスキルが必要で、どのような学習をすればよいのか」を意識すれば、よりいきいきと働くことができる。そうすれば、マネジメントはより強固になり、会社は変化に適応しやすくなるはずだ。