「職場の雰囲気が悪い」「上下関係がうまくいかない」「チームの生産性が上がらない」。こうした組織の人間関係の問題を、心理学、脳科学、集団力学など世界最先端の研究で解き明かした『武器としての組織心理学』。著者は、福知山脱線事故直後のJR西日本や経営破綻直後のJALをはじめ、数多くの組織調査を現場で実施してきた立命館大学の山浦一保教授だ。20年以上におよぶ研究活動にもとづき、組織に蔓延する「妬み」「温度差」「不満」「権力」「不信感」といったネガティブな感情を解き明かした画期的な1冊だ。本稿では、特別に本書から一部を抜粋・編集して紹介する。(初出:2021年11月11日)

武器としての組織心理学Photo: Adobe Stock

信頼ゲーム「他人いくらお金を預けるか?」

 私たちはいろいろな思考様式を用いて物事を捉え、行動を選択しています。

 その思考のタイプによって、相手に対する信頼行動(お金をいくら預けるか)にも違いが出るという研究結果が発表されました。

 このことを実証したのは、イタリアの心理学者セラーロたちです。[1]

 この実験ではまず、20歳前後の男女40人が、2つの課題を割り当てられました。

 一つは発散的思考の課題、もう一つは収束的思考の課題でした。

■発散的思考の課題:
 ペンやボトルのような日用品の使い道について、できるだけたくさんアイデアを出すという課題に取り組みました。

■収束的思考の課題:
「night/夜」「wrist/手首」「stop/停止」のような3つの単語から、これらに関連するものを1つ答えとして導き出すという課題を行いました(ここでの答えは、「watch/腕時計」)。

 各思考課題に10分間取り組んだ後、今度は信頼ゲームに取り組みます。

 彼/彼女たちは5セントを実験者から渡され、そのお金を相手にいくら預けるかを決めるように言われました。

 預託すれば3倍に増やすことができるというルールです。

 そして、相手がそのお金のいくらかを返報してくれれば、その金額が自分の取り分になります。

 このとき相手が信頼に応えるならば、半分(以上)をお返しすると予想されます。

 そうなれば、お互いにめでたく当初よりも所持金が増えます。

 ただし、相手がまったくお金を返さないこともありうるわけで、そういう対応をされた場合には、残念ながら預託損ということになります。

発散的思考が「協力的な行動」を促す

 このような信頼ゲームを行ったところ、発散的思考を行うと、収束的思考を行ったときよりも相手を信頼してより多くのお金を預けることがわかりました。

 この結果については、発散的思考が、より内包的で統合的に情報を処理する性質を持っており、自分と他者の関連づけが促されることによると考えられています。

 相手や職場をどう感じどう捉えるか、そして俯瞰することができるかどうかは能力です。

 その能力いかんによって、協力的な行動をとるか破壊的な行動をとるかが規定される可能性があります。

 これは生まれ持った才能ではなく能力ですから、育てることができます。

 ブレーンストーミングなどの発散的な思考法を時折取り入れることは、他者とのつながりや協力行動を促進させることになりそうです。

 今あなたの目の前の仕事は個人で完結できる内容かもしれません。

 その場合も、組織や社会とつながっていることを意識できる方が、人や情報を引き寄せることができ、自分の仕事にやりがいや誇りが持てるようになる可能性があるのです。

脚注[1]Sellaro, R., Hommel, B., de Kwaadsteniet, E. W., van de Groep, S., & Colzato, L. S.(2014). Increasing interpersonal trust through divergent thinking. Frontiers in Psychology, 5, 561.

(本稿は、『武器としての組織心理学』から抜粋・編集したものです。)