人間は今日より明日、賢くなれる

 では、マインドセットを変えることによって、前頭葉の老化を防ぐことはできるのでしょうか。

 実は、脳という器官そのものについては、YESとは言い切れません。歳を重ねるにつれて前頭葉が縮む現象は、どんな人にもやはり発生します。

 しかし興味深いことに、それは本人の言動の衰えとは、必ずしも一致しないのです。ご高齢の方々の脳の写真を数多く見ていると、前頭葉やそのほかの部位が縮んでいるにもかかわらずしっかりしている人もいれば、さほど縮んでいないのに頭が働かなくなっている人もいることがわかります。

 これは何を意味するかと言うと、加齢によって多少縮んでも、「今ある脳」の使い方を変えれば、脳の若さを保てるということです。

 人間はそもそも、脳を1割程度しか使っていないと考えられています。とりわけ前頭葉の使用はごくごくわずかです。全体が縮んだとしても、使う余地はふんだんに残されているのです。

 ですから、50代のうちから「もう歳だ」などと思わないようにしましょう。脳の「余地」を開拓することで、人間は昨日より今日、今日より明日、賢くなれます。

 前例踏襲に流れないこと。巷(ちまた)の常識を鵜呑みにしないこと。大多数の意見に賛同しないこと。物事に疑問を持つこと。「偉い人」に安易に従わないこと。異なる意見や価値観にも耳を傾けること…。できることはいくつもあります。

 実は、皆さんは若いころから、さらに言えば生まれたときから、前頭葉を使う機会を得られずに来ました。それは皆さんのせいと言うより、日本の社会構造の問題です。

 次章では、皆さんの「過去」にさかのぼり、皆さんの前頭葉がどのようにしてスポイルされてきたか、そして、そのハンデをどう覆(くつがえ)すかについてお話ししましょう。