「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』が日本に上陸した。ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。

SNS調査が明らかにした「他人と自分を比較してしまう心のクセ」Photo: Adobe Stock

人間には、自分と他人を比較するクセがある

 すでに述べたとおり、ソーシャル・メディアに誰かが自分の運動の記録を投稿すると、投稿を見た人たちのその後の行動に影響を与えることになる(1)。私たちの研究では、誰かがランニングの記録をソーシャル・メディアに投稿した場合、それを見た人たちの平均のランニング量が増えるとわかった

 ただし、投稿からの影響の大きさは人によって大きく違う。人間には、自分と他人を比較する癖がある(2)。たとえ同じ行動を見ても、この比較の結果によって、受ける影響には違いが生じる。

 では、具体的にはどういう違いだろうか。たとえば、自分よりも多く走っている人を見た場合(3)と、自分ほど走っていない人を見た場合(4)とで影響はどう違うのか。

「自分より下」と評価している人の行動から影響を受けやすい

 調べると、自分より多く走っている人を見た場合、「もっと走らねば」と思う人が多いとわかった。しかし、普段はあまり走っていない人が多く走ったほうが、よりやる気を出させる効果が高い。彼らは「この人には勝っている」と思っているので、「今の優位を保ちたい(5)」という気持ちが湧くようだ。

 普段あまり走らない人が多く走ると、普段からよく走っている人は大きな刺激を受ける。反対に、普段から走っている人が多く走っても、普段走らない人が刺激を受けることはあまりない。

 習慣的には走らない(毎日走るわけではない)人が走ると、習慣的に走る人には大きな影響があるが、反対に、習慣的に走っている人が走っても、習慣的に走らない人はほとんど影響を受けない。

 まとめると、人は「自分より走らない人」、自分より下と評価している人の行動に影響を受けやすいと言える。「上方比較」よりも「下方比較」に大きな影響を受けるということだ

男女で競争心に違い

 また、運動に関する投稿の影響は、同性間のほうが異性間よりも大きいとわかった。

 男性の投稿は、他の男性に強い影響を与える。しかし、女性の投稿は、男性にも女性にも小さな影響を与えるだけだ。驚くのは、男性の投稿が女性にまったく影響を与えないことだ。

 これは性別によって、運動への意欲、競争心に違いがあるせいではないかと考えられる。

 たとえば、男性には、「運動をする」という決意を投稿した時、皆が褒めてくれるとやる気が出るという人が多い(6)。一方、女性には、大勢に宣言などせず、自分で計画を立てて、自分で管理するほうがやる気が出る人が多い。

 男性は、相手が女性であっても、競争になるとやる気が出るが、女性が男性との競争にやる気を出すことはあまりない。

参考文献
(1) Sinan Aral and Christos Nicolaides, “Exercise Contagion in a Global Social Network,” Nature Communications 8, no. 1 (2017): 1-8.
(2) Leon Festinger, “A Theory of Social Comparison Processes,” Human Relations 7, no. 2 (1954): 117-40.
(3) Tesser, “Toward a Self-Evaluation Maintenance Model of Human Behavior,” Advances in Experimental Social Psychology 21 (1988).
(4) Stephen M. Garcia, Avishalom Tor, and Richard Gonzalez, “Ranks and Rivals: A Theory of Competition,” Personality and Social Psychology Bulletin 32, no. 7 (2006): 970-82.
(5) Festinger, “A Theory of Social Comparison Processes,” 126.
(6) Nelli Hankonen et al., “Gender Differences in Social Cognitive Determinants of Exercise Adoption,” Psychology and Health 25, no. 1 (2010): 55-69.

(本記事は『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』を抜粋、編集して掲載しています。)