「なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?」SNSに潜むウソ拡散のメカニズムを、世界規模のリサーチと科学的研究によって解き明かした全米話題の1冊『デマの影響力──なぜデマは真実よりも速く、広く、力強く伝わるのか?』が日本に上陸した。ジョナ・バーガー(ペンシルベニア大学ウォートン校教授)「スパイ小説のようでもあり、サイエンス・スリラーのようでもある」、マリア・レッサ(ニュースサイト「ラップラー」共同創業者、2021年ノーベル平和賞受賞)「ソーシャル・メディアの背後にある経済原理、テクノロジー、行動心理が見事に解き明かされるので、読んでいて息を呑む思いがする」と絶賛された本書から一部を抜粋して紹介する。
星評価のJカーブ
オンラインでの何かに対する評価には不思議な分布が見られる。
靴でも、ホテルでも何でもいいが、何かの商品を確かに購入したとわかっている人たちのなかから一定数を抜き出すと、その人たちが商品につける評価の分布はいわゆる「釣鐘曲線(ベル・カーブ)」を描くと私たちは予想していた。
極端に良い評価をつける人はおそらく少数だろう。一方で、極端に悪い評価をつける人もやはり少数になるはずだ。そして、大多数の人たちは、とても良いわけでもとても悪いわけでもない、比較的、普通の評価をするだろう。
もちろん、非常に素晴らしい商品ならば、曲線が全体に右に移動し、質の悪い商品なら曲線が全体に左に移動すると考えられる。しかし、良いもの、悪いものをすべて合わせた全商品に対する評価の分布は、釣鐘曲線、つまり正規分布に近くなると私たちは考えていた([図10─2]を参照)。
しかし、実際にカテゴリーの違う多種多様な商品についてのネット上での評価をまとめると、その分布はベル・カーブというよりも、アルファベットの「J」に近い形の分布になることがわかった。
つまり、5段階評価(星五つによる評価)ならば、5と4が多く、1と2は比較的少なく、3は非常に少ないという分布になるのだ。この分布は驚くほど一貫している(1)。
そばにコンピュータがあれば、ためしにアマゾンにアクセスし、適当にいくつかの商品の評価を見てみてほしい。どのカテゴリーのどの商品を選ぶかはあまり重要ではない。どれであっても、分布はJの形になっていることが多いはずだ。
全体に評価の高い商品であれば、Jの形は平らになる。1が少なく、ホッケーのスティックに似た形になるということだ。平均的な評価の商品だともう少し1が増えるので、Jはもう少し曲がりが急な形になる。
そういう違いはあっても、Jカーブだけは多くの商品に共通している。5や4が多く、1と2は少なく、3は非常に少ない。だが、なぜこうなるのだろうか。
この現象には3つの説明があり得る。
(1)購入バイアス
1つは、いわゆる「購入バイアス」のせいだという説明である。
何かの商品を購入した消費者は(購入したからこそレビューを書いたのだが)、そもそも購入した商品について好意的な評価をする傾向にある。購入したということは、その時点である程度以上、気に入っているはずだからだ。
(2)報告バイアス
2つ目は「報告バイアス」を根拠にした説明だ。
ある商品によって特別に良い体験か、特別に悪い体験をした人には、それだけレビューを書く強い動機があるということだ。一方、ごく普通の体験をした人には、レビューを書く強い動機がない。そのため、特別に良い評価、悪い評価が、平均的な評価に比べて多くなる。
(3)売り手と買い手の協力
3つ目は、商品を売る側と買う側が協力し合っているという説明である。
たとえば、ウーバーやリフトなどのタクシー・サービスでは、利用した乗客がドライバーの評価をするようになっているが、両者が密かに手を結び、乗客が良い評価をすると約束していることはあり得る。
良い評価をすることで、乗客にはドライバーから何か見返りがあるということだ。大勢がこれをすると、「高評価のインフレ」状態になるだろう。
企業による「高評価獲得の戦略」
だが一方で、すでに述べてきたとおり、先行するレビューに影響を受けることもあるだろう。先行するレビューの評価が良ければ高評価を、悪ければ低評価をついつけてしまう。そのため、全体を総合すると、評価の分布はJカーブになるということだ。
先に高評価がつくとあとの評価も高くなる、という傾向を知れば、それをビジネス戦略や、評価の操作、株価や選挙結果の操作などに利用しようと考えるのは自然だろう。
たとえば、自社の商品の評価を高めたい企業であれば、満足してくれた顧客には、早く評価するよう促すのが最も簡単な戦略だろう。
商品に満足した顧客が早い段階で高評価をつければ、その後の顧客も高評価をつけることが増える。その商品への高評価が全体として好意的なものになるということだ。評価は本物なので、特に顧客を騙しているわけではない。