そんな竹本氏が退官後に選んだのは、「公立高校の校長」という異色のキャリアだった。もともとは自衛隊からの再就職支援を希望していたものの、家族の住む関西方面での仕事を希望していたこともあり、なかなか望むような求人とは出合えなかった。「自力開拓するしかないか……」。そう考えていたとき、大阪府で民間人校長を募集していることを知った。

「教育現場では、自衛官をよく思わない人も多い。元自衛官というだけで書類ではじかれると思っていた」と話す竹本氏。確かに、筆者の取材でも、教育現場における自衛隊への反感は根深い。それでも、「挑戦するのは自由。たとえ駄目でも現状維持なんだから、応募しない理由はない」と手を挙げた。

 倍率は数十倍。校長経験者をはじめ、教育の現場を知っている者も多数受験していた。集団討論ではライバルたちが教育についての立派な持論を語る中、「同じ土俵では戦えない」と感じた竹本氏は「これからの公立高校は私立高校との差別化を図っていくべきだ」と訴えた。試験に手ごたえを感じたわけではなかったが、蓋を開けてみれば合格。「私も周囲の人たちも受かるわけないと思っていたから、みんなびっくりしていた」と笑う。

 2012年、大阪府立狭山高校の校長として着任した。「民間人校長」「元女性自衛官」の珍しさからマスコミの密着取材もあり、教員からも生徒からも注目の的だったという。校長になるに当たっては、それまでの「自衛隊のやり方」も、「元1佐」のプライドも捨てた。

「自衛隊とは全く違う世界で『自衛隊ではこうやっていたから』と偉そうに言っても、誰もついてくるわけがない。自衛官であったことの誇りは自分の中にだけとどめ、仕事の上では『ゼロからの出発だ』と覚悟を持って臨んだ」