退職金という「ギャンブル」に
強制参加させられるサラリーマン人生
実は、このギャンブルの“掛け金”は、強制徴収されてしまう。“実質後払い”の給与だけにとどまらず、60歳満期で税制優遇を受けられる「退職金」という金融商品に、入社と同時に、有無を言わさず強制加入させ(なんと採用前に退職金制度の内容を開示する義務は一切ない)、年平均60~80万円ずつ裏で積み立て、60歳で2~3000万円の退職金をもらうのが一般的である。
60歳以降は、希望者のみ1年契約の非正規で再雇用され、新入社員より少し高いくらいの年収で5年間を過ごすのが一般的で、65歳から厚生年金が支給される。年金額は、現役時代の年収に応じて、15~20万円くらいが死ぬまで出る。これが古い日本企業に勤めるサラリーマンの生涯である。
退職金は、60歳まで勤め上げた人に報いる目的があるため、途中で自己都合で辞める人には冷たい制度設計になっている。制度は企業によって異なる。
「裏切り者」にはどこまでも冷たい
終身雇用制度の闇
トヨタ自動車は、ざっくり言えば、年80万円分ずつ積立て、22歳から60歳まで38年を勤め上げると、80×38=3040。これに役職に応じた加算や退職賞与が加わり、3200~3300万円が退職金となる。
「私自身がそうだったのですが、自己都合で退職すると、早く辞めれば辞めるほど、損します。入社20年では減額率50%になって、本来なら1600万円のところ、800万円だけしかもらえません。30年勤めてやっと減額率がゼロになり、満額もらえる、という仕組みです」(同社を40代で辞めた元社員)
KDDIの退職金制度資料によると、この減額率は、勤続5年未満で自己都合退職すると「70%」もカットになる。5年刻みで設定されており、10年以上15年未満で「50%」カット。28年以上30年未満で「10%」カット。30年以上の勤続で満額になる。
これを見たとき、《なんだこのイカサマ金融商品は》と思ったものだが、これが日本の終身雇用制度の闇である。途中で辞める“裏切り者”を徹底的に差別し、容赦なく“後払い予定の賃金”を没収していく。
そして、採用活動の時点では、就活生は一切、そうした情報を知るすべがなく、知らせる義務も課されていない。税制も加担しているため、まるで国ぐるみの詐欺である。その一方で、政策として雇用を流動化したい、中途採用を増やしたい、と言っている。支離滅裂で国家の体を為していない。