ノーベル賞経済学者リチャード・セイラーが「驚異的」と評する、傑出した行動科学者ケイティ・ミルクマンがそのすべての知見を注ぎ込んだ『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』(ケイティ・ミルクマン著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)。世界26ヵ国で刊行が決まっている世界的ベストセラーだ。「自分や人の行動を変えるにはどうすればいいのか?」について、人間の「行動原理」を説きながらさまざまに説いた内容で、『やり抜く力 GRIT』著者で心理学者のアンジェラ・ダックワースは、「本書を読めば、誰もが超人級の人間になれる」とまで絶賛し、序文を寄せている。本原稿では同書から、その驚くべき内容の一部を特別に紹介する。
「抱き合わせ」を考えているかどうか?
大学院生時代、私は問題を抱えていた。
授業続きの過酷な一日を終えると、宿題や課題図書そっちのけで、読み出したら止まらない小説を抱えてカウチの上で丸まることが多かった。とくにジェイムズ・パタースンやJ・K・ローリングにハマっていた。私にとって、小説を読むことは至福の贅沢だった。
だがもちろん、小説に没頭するのは時間の最適な使い方ではなかった。工学の博士号をめざす以上は、本腰を入れて勉強しなくてはならない。
それを痛切に感じたのは、ハーバードでの2回目の中間試験でのことだ。コンピュータ科学のいちばん厳しい試験の成績を見て、このままでは落第しそうなことを知った。それまで単位を落としたことも、落としそうになったこともなかったのに。何かを変える必要があった。
さいわい、フィアンセがけしかけてくれた(「君はエンジニアだろう? 解決策を設計できないの?」とけしかけてきた。本書参照)おかげで、運動量を増やしながら勉強の先延ばしをやめる方法をひらめいた──好きな小説を読む楽しみを、運動するときだけにとっておいたらどうだろう?
うまくすれば、家で勉強をサボってハリー・ポッターを読みふけるのをやめ、そのうえ物語の次の展開を知るためにジムに行きたくてたまらなくなるかもしれない。
嫌なことが楽しく、楽しいことがもっと楽しくなる
それだけではない。
小説とワークアウトを組み合わせれば、どちらの楽しみも増す。罪悪感を感じずに小説を読めるし、ジムで過ごす時間は飛ぶように過ぎるだろう。
このアイデアを検討するうちに、同じようなテクニックを使えばいろいろな自制の問題を解決できそうだと気がついた。
どこを見回しても、一石二鳥の機会にあふれていた。
たとえば私はペディキュアが好きだが、塗ってもらう時間がもったいないと感じていた。なら、課題図書を読むときだけペディキュアをしてもらったらどうだろう?
また大好きなネットフリックスの番組をイッキ見していいのは、洗濯物畳みや、料理、皿洗いなどの家事をするときだけにしたら?
十数年後に教授になってからも、お気に入りのハンバーガー店に行くのを、もっと面倒を見なくてはならない、成績不振の学生に会うときだけに取っておけば、ジャンクフードを減らすこともできると思いついた。食べたくてたまらないハンバーガーを食べるために、学生の指導にもっと時間をかけられるし、全体としてジャンクフードの量を減らすこともできるのだ。
私はこの戦略を「誘惑抱き合わせ(バンドル)」と名づけ、いつでもどこでも活用するようになった。
(本原稿は『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』からの抜粋です)