世界初の缶コーヒーを
開発した日本人

 実は、缶コーヒーを初めて開発したのも日本だったそうだ。世界初の缶コーヒーが何かは諸説あるが、1965年には「ヨシタケコーヒー店」店主の三浦義武氏が缶コーヒーを発売。その4年後に上島珈琲(現UCC上島珈琲株式会社)のミルク入り缶コーヒーが開発されたことで、全国に缶コーヒーが普及した。同社を創業した上島忠雄氏は、もっと手軽にコーヒーを持ち運べるようにとの思いで開発を進めたのだという。

「コーヒーを缶に詰め、温めて売るなんて発想は、まだ世界にはありませんでした。実は最初に缶コーヒーが作られたとき、菌が発生してしまうなど、多くの問題が起きていたようです。問題を解決するためにさまざまな工夫が繰り返されてきました」

 おいしさという点では淹れたてのコーヒーには叶わないが、いつでも簡単に飲める缶コーヒーの開発も、日本のコーヒー愛の一つの形といえるのかもしれない。

 また、セブンイレブンを筆頭に、コンビニでもオリジナルのコーヒーを飲む機会が増えた。手軽においしいコーヒーが飲めると評判だ。

「コンビニのコーヒー豆は、常に一定のブレンドというわけではありません。原料価格の動向によって使うコーヒー豆を変えても味が大きく変化しないよう、コーヒーメーカーを作るときは大変な努力をしたようなのです。また、その場でコーヒーを『淹れられる』というのは大きな強みですね」

 誰でも気軽にコーヒーを楽しめる現在の環境は、多くの先人たちのコーヒーにかける情熱によって耕されてきた。日本のコーヒーをめぐる状況は、今後どのように変化していくのだろうか。

「多くの人が気軽にコーヒーを飲める状況になったので、さまざまな種類のコーヒーの中から自分のお気に入りを見つけたという人も増えてきたと思います。これから先もコーヒー好きの日本人はますます増えていくと思いますが、『2050年問題』と呼ばれる環境問題が、コーヒー消費大国の日本に大きな影響を与えるかもしれません」

 このまま地球温暖化が続くと2050年にはアラビカ種のコーヒー豆の栽培地が半減してしまうというコーヒーの『2050年問題』。コーヒー豆生産に適した土地を持たない日本にとって、栽培地の縮小化は大きな問題となるだろう。

「コーヒーファンが増えつつある状況だからこそ、『大好きなコーヒーが飲めなくなってしまうかもしれない』という危機感も頭の片隅には置いてほしいですね」

 ほっと一息つけるコーヒーを今後も楽しむために、ほんの少しでも地球に優しい行動を取ってみてはいかがだろうか。

旦部幸博氏

滋賀医科大学准教授。医学博士。専門は、がんに関する遺伝子学、微生物学。人気コーヒーサイト「百珈苑」主宰。自家焙煎店や企業向けのセミナーで、コーヒーの香味や健康に関する講師を務める。著書に『珈琲の世界史』(講談社現代新書)、『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』(講談社ブルーバックス)、『コーヒー おいしさの方程式』(共著、NHK出版)がある。