地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』(王立協会科学図書賞[royal society science book prize 2022]受賞作)は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者からの書評などが相次いでいる。本書の発刊を記念した著者ヘンリー・ジーへのオンラインインタビューの7回目。これまでの連載に続き、世界的科学雑誌「ネイチャー」のシニア・エディターとして最前線の科学の知を届けている著者に、地球生物史の面白さについて、本書の執筆の意図について、本書の訳者でもあるサイエンス作家竹内薫氏を聞き手に、語ってもらった。(取材、構成/竹内薫)

手を洗わず、自分のウンコも食べる…不衛生なチンパンジーは、なぜ人間ほど多くの病気に苦しまないのか?Photo: Adobe Stock

病と人類の歴史

――ところで、普段、論文の他に一般向けの科学書もお読みになるのですか?

ヘンリー・ジー:超圧縮 地球生物全史を書いた後、一冊の本を読みましたので、そのことをお話しします。

 カイル・ハーパーという人の『地球の感染症(Plagues Upon the Earth)』という本です。

 科学的な本ですが、カイル・ハーパーという人は歴史家です。

 彼は、「病気がローマ帝国をどのように形成したか」について言及しています。ローマ帝国では、さまざまな災いがあり、多くの人が死にました。

 しかし、彼は、病気はもっと一般的な方法で人類の歴史を形成してきたのではないかと考えました。

 私が彼の本で覚えていることのひとつは、人間は異常に病気になりやすいということです。

――病気になりやすい? これだけ医学が進んでいるのに、他の動物などと比べて病気になりやすいということですか? ちょっと意外ですね。

チンパンジーと病気

 人間を苦しめる病気は少なくとも200種類はあります。これは、私たちが知っている他のどの動物の病気よりもはるかに多いのです。

 彼はチンパンジーの話を紹介しています。チンパンジーは人間ほど多くの病気に悩まされることはない。手を洗うことを知らないし、自分のウンコも食べるし、本当に不衛生なのに、人間ほど多くの病気に苦しまないのです。

 実際、チンパンジーがかかる病気のいくつかは、人間がチンパンジーに与えたものです。

 逆に、チンパンジーから来たかもしれない病気もあります。

 たとえばエイズはチンパンジーから来たかもしれないのです。

 とにかく、人間は、遺伝的に非常によく似ていることもあり、多くの病気に悩まされています。

 でも、新型コロナのパンデミックから学んだことは、人間が本当に協力しようと思えば、本当にできるのだということ。

新型コロナからの教訓

 実際、数ヵ月のうちにワクチンが開発されました。

 通常、ワクチンの製造には何年も何十年もかかりますが、短期間のうちに人々がワクチンを製造したことは非常に役に立ちました。

 一般的なワクチンほどではありませんが、病院に行って死ぬよりはましです。

 このように、私たちは種として本当に望むとき、自分たちを救うために協力することができるのです。ですから、これは教訓だと思います。

――なるほど、人類は種として、遺伝的多様性が足りないわけですね。

 だから、一つの病気で大勢が亡くなる可能性があると。そのせいで、新型コロナがパンデミックになったのだとも考えられますね。

手を洗わず、自分のウンコも食べる…不衛生なチンパンジーは、なぜ人間ほど多くの病気に苦しまないのか?ヘンリー・ジー
「ネイチャー」シニアエディター
元カリフォルニア大学指導教授。一九六二年ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学にて博士号取得。専門は古生物学および進化生物学。一九八七年より科学雑誌「ネイチャー」の編集に参加し、現在は生物学シニアエディター。ただし、仕事のスタイルは監督というより参加者の立場に近く、羽毛恐竜や最初期の魚類など多数の古生物学的発見に貢献している。テレビやラジオなどに専門家として登場、BBC World Science Serviceという番組も制作。このたび『超圧縮 地球生物全史』(ダイヤモンド社)を発刊した。本書の原書“A(Very)Short History of Life on Earth”は優れた科学書に贈られる、王立協会科学図書賞(royal society science book prize 2022)を受賞した。
Photo by John Gilbey

(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉への著者インタビューをまとめたものです)