目に見えないターゲットから、
顔の見えるコミュニティと関わる時代

小西:メディアやチャネルが多様化・断片化する中で、今日の勝ち組ブランドの多くは、自社(オウンド)メディアやチャネルを強化し、顧客と直接関係を持つことで差別化された「ブランド体験」を創造しています。目に見えないターゲットにイメージづくりをすることから、顔の見えるリアルな人やコミュニティと関わるためのマーケティング戦略を構築すべきではないでしょうか。

【デービッド・A・アーカー氏×小西圭介氏対談】(前編)<br />企業が一方的にブランド価値を提供し、<br />メッセージやイメージを管理する時代は終わった小西 圭介(こにし・けいすけ)
(株)電通 ブランドクリエーションセンターのチーフコンサルタント。2002年米国プロフェット社に出向し、デービッド・アーカーらとグローバル企業のブランド戦略構築に携わる。現在戦略コンサルティング部のチーフコンサルタントとして、数多くのクライアントのブランド・マーケティング戦略サポートを行うとともに、多数の講演、執筆などで、デジタル時代の新しいブランドおよびマーケティング戦略モデルを提唱している。著書に「ソーシャル時代のブランドコミュニティ戦略」(ダイヤモンド社)。
電通ウェブサイト内「電通人語」でもコラム連載中。

アーカー:ブランドが顧客と関係を築くことは重要になっている。そしてブランドコミュニティ戦略は今日的なテーマだ。しかし現実はといえば、すべての企業が成功しているわけではなく、参加者の求心力や関係性を維持し、ブランド価値を生み出す仕組みづくりが今、求められている。

 ブランドが直接、ユーザーと「場」や「接点」をもつことは、独自のブランド体験を創りだし、製品からサービス価値を拡張する大きなチャンスを生み出すが、一方、悪い体験が、ブランドを棄損するリスクもあることも忘れてはならないだろう。

小西:おっしゃる通りです。そうであればこそ、「顧客主語」への転換が重要になってくるわけですね。

 ここで1点捕足しておくと、私が言う「コミュニティ」とは、オンラインのマーケティング活動のコミュニティだけを指しているだけではありません。今日では、製品自体のネットワーク化やサービスのダイレクト化など、デジタル化によるプラットフォームビジネスが拡大しています。また、企業やブランドは、顧客、パートナーやチャネルや地域社会、従業員などさまざまなリアルなコミュニティと関わっています。

 これらをどのように支援し、人がつながることでコラボレーションを通じて価値を共に生み出していくかというコミュニティ形成の活動を、今日的なブランド戦略の焦点であると考えています。

アーカー:それは非常に大事な視点だ。成功する「場」づくりを行うためには、参加者のモチベーションを理解し、企業と顧客だけではなく、人と人とのつながる価値を生み出していく必要があるだろう。

 米国で展開されているPampers Village*1Kraft Recipes*2Sephora Beauty Talk*3などのコミュニティプログラムは、ブランド情報の発信ではなく、生活者の話題や生活の関心事について情報を得たり、自らの経験やアイデアを共有して貢献できる場を創り出している。

*1 Pampers Village:米国パンパースが運営する、育児情報を共有するブランドコミュニティ(https://www.pampers.com/registration
*2 Kraft Recipes:米国クラフト社における、料理レシピのアイデアを紹介・共有するコミュニティサイト(http://www.kraftrecipes.com/home.aspx

*3 Sephora Beauty Talk:米国セフォラの運営する、美容に関する情報交換や専門家のアドバイスを共有するコミュニティサイト (http://community.sephora.com/