ロボット天国になりつつある中国
産業用ロボットでは「ロボット大国」を自負していた日本だが、サービスロボットは中国の技術がリードする。中国では2022年の冬季北京五輪と前後して、一気に“ロボット天国”になった。ルームサービス、フードデリバリー、移動販売、ガイド通訳とあらゆる範囲でロボットが投入された。とりわけ、コロナ禍の五輪開催ということで、消毒ロボットと警備ロボットが活躍した。
北京以外でも導入が進んでおり、筆者の元には中国各地からサービスロボットの“目撃情報”が届いていた。
四川省成都市出身の劉さん(仮名、会社員)は、重慶市内のビジネスホテルでの宿泊体験について、「ルームサービスを頼んだら、運んできてくれたのはかわいい声のロボットでした」と話している。また、陝西省西安市在住の郭さん(仮名、大学院生)は、「接客ロボットを設置した銀行も増えています」という。
「浙江省杭州市のショッピングモールで案内ロボットを見ました」と話す汪さん(仮名、会社員)は、その利点を次のように語っている。
「中国のショッピングモールは大型で、1フロア当たりの面積がとても広いのですが、案内カウンターは1カ所しかなく、場所探しがとても不便でした。この問題を解決したのが接客ロボットです。フロアごとに複数の案内ロボットがウロウロしていて、道案内やフロアの店舗紹介もしてくれます」
汪さんを接客した案内ロボットは、目的地が離れた場所にあったので、途中、担当者を呼び出してバトンタッチしてくれたという。非接触が保たれるという点と、従業員のサービスよりも丁寧で愛想がいいという点で、汪さんはロボット対応を評価している。
2022年6月に米調査会社IDCが発表した調査報告によれば、中国における外食産業向けサービスロボットの市場規模は2021年に8400万ドル(約112億円)となり、年間成長率は110%となった。ちなみに、市場シェアは中国のKEENON Roboticsが48.6%で業界トップ、前述のPUDUは25.9%で第2位となっている。
日本では2022年から本格化
「残念ながら、日本のサービスロボットは出遅れています」と話すのは、中国のロボット事情に詳しい村田健介さん(仮名)だ。
サービスロボットには、配膳、介護、宅配、警備、掃除など多くの種類があるが、日本では実証実験中のものが多く、またコスト的に合わないという理由で、現場での導入がなかなか進んでいない。
2021年までの“第一世代”には、中国のKEENON Robotics社製の配膳ロボット「PEANUT」、中国のBeijing Yunji Technology社製の「YUNJI DELI」、ソフトバンクロボティクスによる「Servi」がある。これらは2019年末から2021年初頭にかけて投入された。
これに続くのが、PUDUの「BellaBot」で、2021年末にすかいらーくが導入を発表してから、飲食業界では一気にサービス用ロボットの普及が始まった。「BellaBot」の場合、ワンフロアに最大30台まで入れられ、ロボット同士が互いに通信しながら、障害物を回避することができるという。
村田さんは「外食チェーン以外にも潜在的ニーズがあります。特に必要性がありながらも人材を投入しにくい業態で歓迎され始めています」と語る。
たとえば、ゴルフ場のクラブハウスなどもその一つで、1日4時間の稼働に限られる人里離れた立地ではなかなかアルバイトを集めにくいが、配膳ロボットの導入で人手不足を解消した事例も出始めている。また、一部の病院では検体や薬品の運搬業務で導入事例があるが、運搬という“本業”以外でも「患者さんの気持ちを明るくするのに役立っている」(同)という。