地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』(王立協会科学図書賞[royal society science book prize 2022]受賞作)は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。

ダチョウ、ペンギン、エミュー…「飛べない鳥」たちは、なぜ遠いむかしに空を飛ぶことをあきらめたのか?Photo: Adobe Stock

飛べない鳥たち

 飛行の進化におけるもう一つの特徴は、動物たちがしばしば飛行能力を失おうとすることだ。

 鳥類は、飛べるようになるや、間髪をいれずに飛行をあきらめようとしはじめた。

 そもそも、すべての鳥が飛ぶことに長けているわけではない。少なくとも二つの鳥類のグループが遠いむかしに飛ぶことをあきらめている。

人類によって絶滅

 その一つが、ダチョウ、エミュー、ヒクイドリ、キーウィ、そして彼らの絶滅した親戚である、ニュージーランドのモアや、マダガスカルのエピオルニス(象鳥)などの走鳥類だ。

 モアもエピオルニスも、人類が上陸してまもなく絶滅に追い込まれた。

 もう一つはペンギンで、水中を飛ぶために翼をヒレに変化させてしまった。どちらのグループも太古からいる。

 また、地上に捕食者が生息していない孤島にたどり着き、のんびり気楽に暮らすうちに、飛べなくなった鳥たちもいた。

 ガラパゴス諸島の飛べない鵜、ニュージーランドのフクロウオウム(オウムの一種)、モーリシャスのドードー(特大の鳩)などがその例だ。

 ほかにも走鳥類とは無関係なグループがいくつかあったが、いずれも人類が出現する数百万年前に絶滅している。

翼がほとんどない鳥とは?

 白亜紀後期には、プテラノドンなどの翼竜が上空を滑空するなか、かつて北米大陸を南北に二分していた海路の岸辺にそって、イクチオルニスという、カモメに似た歯のある原始的な鳥がちょこまか歩きまわっていた。

 また、体長が1メートル以上あるが、翼のほとんどない大型の鳥、ヘスペロルニスがおり、おそらくペンギンのように魚を追って、水に潜って生活していたと思われる。

 イクチオルニスやヘスペロルニスが古代のネブラスカ州の海岸をぶらぶらしていたころ、アルゼンチンに生息していた白亜紀の鳥で、雌鶏くらいの大きさのパタゴプテリクスも飛ぶことをあきらめたようだ。

 アルヴァレスサウルス類として知られる恐竜のグループは、非常に小型で羽の生えた恐竜の集まりで、脚は長いが翼は小さな切り株状と化し、それぞれ大きな爪が一本ずつ付いていた。

飛ぶことはかなり大変

 科学者の見立てによると、彼らも飛べない鳥類である。

 飛行は高くつく習慣だ。

 恐竜の基本設計には、ほぼ最初から飛ぶためのすべての必須条件が組み込まれていたにもかかわらず、飛ぶということは、むかしもいまも非常に骨の折れる作業なので、チャンスが巡ってきたのに多くの飛行家たちがあきらめてしまったのも無理はない。

 ドロマエオサウルス類やトロオドン類のなかでも、より小型で飛行能力の高いものは、仲間内で最初のころにあらわれていた例が多い。

 その子孫たちは大型で、より地に根ざしていた。後期のドロマエオサウルス類とトロオドン類は、まさに地上に降りたドラゴンのようだった。鳥類は、鳥になる前から、飛べなくなっていたのだ。

無数の鳥たちのさえずり

 挑戦しつづけたものたちもいた。

 白亜紀の空は、チュンチュン、ガーガーという無数の鳥たちのさえずりで急速に満たされていった。

 その多くは、エナンティオルニス類という、(歯と翼の鉤爪を保持していること以外は、)現代の鳥類とよく似たグループだった。

 しかし、現代と同じような姿の鳥類も、白亜紀の終わりよりもずっと前に姿をあらわしはじめていた。

 たとえば、白亜紀後期の水鳥アステリオルニスは、やがてアヒルやガチョウ、ニワトリとなる鳥類グループの仲間だった。

(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)