今の若者の大多数は、
自分が分からない「アイデンティティ拡散」状態

「自分がよく分からない」というのは、青年期にありがちな心理で、かつては10代後半から20歳前後によく見られるものとされていた。

 青年期になると、それまで親などによって作られてきた自分のあり方に不満や疑問を抱き、主体的に自己を形成しよう、自分なりの価値観に従って生きていきたいという欲求が高まってくる。これまでの自分の生き方を脱ぎ捨てて、新たな自分に生まれ変わろうとする。

 自分が納得できるような生き方をしたいと思うのだが、それがどんな生き方なのかが漠然としていて、よく分からない。そこで、自己の探求が始まる。「自分らしく生きたい。でも、どういう生き方が自分らしいんだろう?」「そもそも自分らしさって何だろう?」といった問い、いわゆるアイデンティティをめぐる問いが絶えず頭に浮かぶようになる。

 自分はこの先どんな人生を歩んでいくんだろう。自分はいったい何をしたいんだろう。自分はこの社会で何をすることを求められているのだろう。自分は何をすべきなんだろう。「自分は……」「自分は……」と、この種の問いが押し寄せてくる。

 そうした心理状況の中、つかみ所のない自分を見失い、自分がよく分からなくなってしまった状態のことを「アイデンティティ拡散」という。かつてそれは病理症状とされていたが、それは社会の変動が少なく、大人としての生き方がはっきり定まっていた時代のことである。

 私が大学生を対象に行った意識調査では、30年前にはもう、20歳前後の学生のほぼ半数が自分を見失ったアイデンティティ拡散状態にあることが分かっている。その後、ますます複雑かつ変動の激しい、先の見えない社会になってきているため、今の若者は大多数がアイデンティティ拡散状態にあるといっていいだろう。