就職しても迷いは消えず、
自分が分からないと情緒不安定になりやすい

 このように自分がよく分からないまま卒業の時期が迫り、就職活動に励んで、何とか就職に漕ぎ着ける……というのが多くの若者の実態である。こうしてみると、就職したからといって迷いがなくなり、アイデンティティをめぐる葛藤が解消しているわけではないことが分かるだろう。

 いきなり仕事に慣れるものではないし、すぐに成果が出せるものではないのだが、仕事が思うようにいかず成果が出せなかったり、ミスをして注意されることが度重なったり、なかなか仕事力が高まらず望むような評価が得られなかったりすると、「自分はこの仕事に向いているのだろうか?」「これが自分にふさわしい職業生活なのだろうか?」「もっと自分に合う仕事が他にあるのではないか?」などといった疑問が湧いてきやすい。

 転職が珍しいことではない時代になった今は、こうした疑問がますます湧きやすくなっている。転職が難しい時代であれば、なかなか仕事になじめなくても、もう少し地道に頑張ってみようと思えたであろうが、転職が容易になってくると、ちょっと合わないと感じると、アイデンティティをめぐる葛藤が活性化されやすい。

 だが、衝動的に転職しても、新たな仕事が自分に合うとは限らない。また、新たな仕事に馴染むのには時間がかかるため、なかなか思うようにいかず、「自分はこの仕事に向いているのだろうか?」「これが自分にふさわしい職業生活なのだろうか?」「もっと自分に合う仕事が他にあるのではないか?」などといった疑問が湧き、迷いが解決しないままに転職を繰り返すといったことにもなりやすい。

 さらには、アイデンティティ拡散状態に陥ると、自分がどうすべきかが分からず、不安や焦りが高まり、非常に情緒不安定になりやすい。そうした心理状態にあっては、仕事に意欲を持って取り組むことは難しくなってしまう。周囲から、もっとやる気を出せ、集中しろなどとアドバイスされても、まずは気持ちが落ち着かないとどうにもならない。気持ちを落ち着かせるには、心の中の葛藤にじっくり耳を傾けてくれるような良い聴き手が必要である。

 迷いを抱える若手社員の相談に乗る際には、そうした心の葛藤を踏まえた上で対処するようにしたい。