もう一つの特徴は、Creace上ではユーザーが思い思いの3Dオブジェクトを自分で配置できる点にある。現実の世界には、勝手に自分のものを置くことはできないが、拡張現実の世界なら自由に置けるわけだ。

「観光地の何かのお城の跡地などで、現実には失われてしまったお城の3Dデータを拡張現実内に置いて、カメラ越しに見ることもできるし、まったく架空のオブジェクトを置くこともできます。拡張現実のプラットフォームです」

コロナ禍、2カ月でサービスにこぎつけた

 2020年夏には、孫正義育英財団の仲間と「Nolack(ノラック)」というウェブサービスをリリースした。新型コロナウイルスの感染が世界だけでなく日本でも広がり、一部の地域でマスクや防護服の不足が生じた。一方で、感染に対する不安がそれほど大きくない地域では医療用品や衛生用品の余剰が生じた。そのアンバランスを解消すべく、大塚さんらがアイデアを出し合い、同年2月にチームを結成して開発したのがNolack(No lack、つまり「欠品なし」の意)。どの物資がどれだけ余っているかを登録する側、物質が足りず困っている側を、Nolackのウェブサイトを通じて繋げるマッチングプラットフォームである。

「当時、資金力のある人たちがマスクなどを全国各地に送る活動に取り組んでいましたが、本当に必要とされる場所ではなく、すでに十分ある場所に送ってしまった事例がいくつかありました。必要な物資を必要な場所へ的確に提供できるサービスを目指しました」

 別の機関が同様のサービスをはじめたり、必要物資の増産体制が強化されたりした結果、Nolackの利用者は期待したほど伸びなかったというが、短期間でサービス開始にこぎつけた大塚さんら10代・20代の若者の行動力と機動力には目を見張るものがある。

「コロナ以前から、遠方の人とチームを組んで何かのプロジェクトを進めるとき、Zoomミーティングなどのオンライン会議システムを利用していたので、パンデミックによる制限がある中でも迅速に開発を進めることができました」

 大塚さんはコロナ禍以前からオンラインで活動する機会が多かった。そのため、直接会う場合とデジタルツールを介してコミュニケーションを取る場合のメリット、デメリットを考えてきたという。「誰かにプログラムのコードについて説明するとき、物理的に近くにいれば、画面を指さしながら話したり、キーボードを借りて自分で入力したりして『こうすればいい』と実演できます。遠隔地からオンラインでやりとりするとき、同じことは不可能ではありませんが、時間がかかる。その点、リアルに会うメリットはたしかにあります。リアルの方が情報量が圧倒的に多いんです。でもリアルとオンラインのコミュニケーションの間に本質的な違いがあるわけではないと思います。僕自身はオンラインでのやりとりに慣れていたので、Zoomミーティングやオンライン授業が盛んになっても戸惑うことはありませんでした」