商業捕鯨になり、
安売りで値崩れした

 商業捕鯨2年目に企業再建、ひいては捕鯨産業の復興を託されたのが、経営コンサルタントの所だった。

 所は10年前にも共同船舶の取締役として捕鯨産業の経営にメスを入れた経験があった。当時、売れ残ったクジラ肉の在庫は累計3000トン以上。水産庁から調査を委託されていた日本鯨類研究所と共同船舶を合わせると15億円の債務超過となり、約60億円の借り入れがあった。毎年3億円の赤字を垂れ流していた。所は言う。

「調査では捕獲できるクジラの数が決まっていました。供給できる食肉は年間約2400トン。採算を合わせるために、やったことは3つ。プロモーションして値段を上げる。生産ラインを見直し、コストダウンする。品質を上げる」

 たとえば、知られていなかったクジラ肉に含まれるバレニンという疲れにくくなる成分や、認知症予防効果を前面に打ち出し、新規の顧客先を開拓した。16年には共同船舶と日本鯨類研究所を併せて黒字化を達成し、過剰在庫ゼロ、債務超過の解消、借り入れの健全化を達成する。

 取締役を離れてから4年後、呼び戻されて社長に就任すると状況はより悪化していた。商業捕鯨で捕獲可能なクジラの数から逆算すると生産できるクジラ肉は、約1600トン。クジラ資源にダメージを与えないよう厳しい捕獲枠を設けたためだ。さらにクジラ肉の価格が以前よりも下落していた。所が経営改善に携わった時期にはキロ1200円で取り引きされていたが、711円に落ち込んでいた。

「商業になり、営業利益を上げる必要性に迫られた。安売りした結果、値崩れしていた」

 そう説明する所が、いまプロモーションで押し出しているのが“海のSDGs”。人類が消費する海産資源は年間約9000万トン。クジラは、その3倍から6倍のエサを必要とするという研究結果がある。日本の漁業不振の一因は、サンマやイカ、イワシなどエサとするクジラの食害だと指摘する専門家もいる。所は続ける。

「海の生態系を守るにはクジラを間引く必要がある。『おいしいクジラを食べて“海のSDGs”に貢献しよう。クジラは少々高くてもおいしい』というイメージを定着させたい」

生肉に力を入れ
単価を回復させた

 冒頭のキロ50万円の生肉もプロモーションの一環である。

 一般的に流通するクジラ肉は冷凍物だ。生肉は、めったに出回らない。生肉は、臭みがなく、弾力がありつつもやわらかい。生肉の流通は、安いが硬くて臭いというかつてのイメージを払拭すべく商業捕鯨になってから力を入れる取り組みである。

 日本各地で生肉の市場上場などがメディアに取り上げられた結果、711円だったキロ単価は1200円台にまで回復した。所が社長に就任した翌年に赤字を約2700万円に圧縮。今年度は円安や原油高の影響もあったが、約2億円の黒字が見込まれる。

 来年度はアイスランド産クジラ肉を輸入する計画だ。

「調査捕鯨時代、輸入を含めたクジラ肉の供給量は5500トンでした。短期的には我々が生産できる1600トンを高値で売れば、経営的には楽なことは事実です。しかし我々を支えてくれる加工業者や関係者の方々がいる。長期的な視点に立てば、5500トンの市場を維持できなければ、捕鯨産業の存続はあり得ない」

 今年、共同船舶は60数億円をかけて、新造母船の建設に着手すると所は言う。

「リーディングカンパニーとして、捕鯨産業に未来があるというメッセージを発していきたい」

(文中敬称略)