リーダーや役職を任されたとしても、リーダーになる方法を伝授されるわけではない。そのため、「一体、何からすればいいんだろう」と思い悩むリーダーは多いはずだ。そんな人たちに対して、『リーダーの仮面』の著者、株式会社識学の代表取締役社長・安藤広大氏は、「まずリーダーがすべき重要な仕事は、『ルール』を決めること」と語る。職場でつくるべきルールとは何か。それを決めることでどのような効果があるのか。本記事では、本書の内容をもとにリーダーが決めるべきルールとマネジメントの関係をご紹介する。(構成:神代裕子)

リーダーの仮面Photo: Adobe Stock

リーダーになったらすべきこと

 筆者は以前、会社員だった頃にリーダー職を経験したことがある。

 リーダーとしての初仕事は、確か「チームの半期の目標を決めること」だったように思う。

 マネジメントについて、上司から特に何か指導を受けたりアドバイスをもらったりした記憶はない。

 ただ、これは筆者に限った話ではないだろう。

 筆者と同様に、役職に就いたからと言って「こんなふうにチーム(や部署)を運営してください」と教えてもらったわけではない、という人の方が多いのではないだろうか。

 そんな迷えるリーダーたちに、道筋を示してくれる本がある。株式会社識学の代表取締役社長・安藤広大氏の著書、『リーダーの仮面』だ。

 この本の中で、安藤氏は「リーダーになった人がすべき重要なことは、『ルールを作り、それを守らせること』」と提言する。

「ルール」があることで人は自由になれる

「ルールを作ろう」と言われても、「ルールなんていちいち必要だろうか」と思う人もいれば、「勝手にルールを決めてもいいのだろうか」と及び腰になる人もいるだろう。

 一体、安藤氏はなぜ「ルールを作ることが必要である」と主張するのか。

 それは、「ルールがあるからこそ、人は自由になれるから」だと語る。

国には法律があり、道には道路交通法があります。だから安心してビジネスができたり、安全に道を歩くことができます。(中略)無法地帯で部下やメンバーを混乱させないために、まずはルールを設定し、守らせるようになりましょう。(P.62)

 では、ルールがないとどのようなことが起こるというのだろうか。

「ルール」がないと仕事に集中できない

 ルールが明確化されていなかった場合、どのようなことが起こるのか。安藤氏は、交通ルールを例に説明する。

組織において事前にルールが明確化していない状況は、次のようなことを言われるのと同じです。「『自由に走っていい』って言ったけど、いま、60キロで走っていたよね? ここ、実は50キロ以上で走っちゃダメなんだよ。だから違反ね」 そう言われて違反切符を切られてしまったら、どうでしょう。「最初からそう言ってよ!」と思うはずです。リーダーは、このようなエラーをなくさないといけないのです。(P.67-68)

 ルールが明確になっていない場合、部下はリーダーの顔色を伺い、空気を読みながら行動することになってしまう。

 確かに、決まっていない約束事を守らせることはできないし、言われてもいないことを急に求められても部下は困ってしまう。ルールがあることで、安心して働くことができるのだ。

 上司が「こうしてほしい」と思うことは、ルール化してしまうのが一番明解なのかもしれない。

「行動のルール」と「姿勢のルール」を決める

 では、具体的にどのようなことをルール化するのがいいのだろうか。

 安藤氏は、「ルールには大きく分けて2種類がある」と語る。それが「行動のルール」「姿勢のルール」だ。それぞれ、次のような内容になる。

「行動のルール」とは「1日に10件営業回りをする」「会社に1000万円の利益をもたらす」といったルールです。これらは会社が設定した目標と連動したルールです。したがって、守れる場合と守れない場合があり、それによって部下は評価されます。(P.72)
「会議に遅れずに参加しましょう」「日報を17時までに提出しましょう」などが姿勢のルールにあたります。これらには、「やろうと思えば、誰でも守ることができる」という特徴があります。姿勢のルールは、リーダーに対する姿勢を表すものです。「できる・できない」が存在しないので、守らない人間は「意図的に守っていない」ことになります。姿勢のルールを徹底して守らせることが、組織のリーダーとしての一丁目一番地にあたります。(P.72-73)

 特に、「姿勢のルール」に関しては、「守ろうとすれば守れること」であるため、次のような効果が生まれるという。

・感情で動いている組織では、「相手を好きか嫌いか」で行動が変わってしまうが、正しくルールを言語化して運営されている組織では、業務上で感情的になることはなくなる。そのため、人間関係の悩みもなくなる。

・「うちの会社って、スピード感がないところがダメだよね」といったように、評論家のような立ち位置になりがちな人に、「姿勢のルール」を守らせることで、コミュニティへの帰属意識を持たせることができる。

 つまり、ルールがなければ、人は「好き嫌い」といった感情で物事を判断しがちだし、「私には関係ない」と他人事になったり、「マイルール」で動いたりしてしまったりする、ということだ。

 実際、筆者もリーダーになってみて驚いたのが、「好き、嫌い」で判断したり発言したりする人が想像以上に多かったことである。

 仕事の話をしているのにもかかわらず「あの人が気に入らないからやりたくない」などと言ってくる人が少なくなかった。

 そういった層に対して、「ルールだからしてください」という指導は確かに効果的だし、再三注意しても守らない人に関しては、上司に「あの人は行動に問題あり」と報告することもできる。

 そういった対応をすることが、ルールに従ってきちんと仕事をしている人たちを守ることにもつながるのだ。

「ルール作り」はリーダーとしての第一歩

 ルールを作り、それを守るよう、淡々と指摘する。これならば、新人リーダーであっても取り組みやすく、基準もわかりやすい。

 部下それぞれの言い分や感情はスルーしても目的は達成されるから、結果も出るはずだ。

 最初のうちは、「偉そうに指示を出していると思われているかも……」と不安になるかもしれないが、そこは「上司という役割を果たしているだけ」と割り切る気持ちが必要だ。

 実際、安藤氏は次のように指摘する。

「姿勢のルール」のように、「簡単なようで、できていないこと」を守らせることができるかどうか。それが、今後のマネジメント人生で大きな差を生みます。(中略)「姿勢のルール」すら守らせられない人に、この先、大きな仕事は成し得ません。それくらいの覚悟で実践してみてください。(P.92)

 耳が痛い言葉だが、確かにおっしゃる通りである。

 本書の中では、ルールを決める上での注意点などにも触れられている。それを参考に、まずはルール作りから始めてみてはいかがだろうか。