絵画取引のイロハを教えたのが、アイチの森下
イトマンや許永中はこのロートレック・コレクションの売買をきっかけに、ともに絵画取引にのめり込んでいく。それ以外の許側の支払った絵画の代金だけで100億円にのぼった。と同時に許は、イトマンへ自ら仕入れた絵画を持ち込んだ。それらのトータルの取引が、先に書いた211点、557億円の絵画取引なのである。
絵画ビジネスに入れ込んだ許は、絵画の展示施設として自ら「高麗美術館」の建設計画を立てた。そのためイトマンへの支払いは、美術館の完成予定の3年後と約束した。だが、最終的に美術館が完成することはなく、コレクションはイトマンにとどまったままになる。
そうして園子の話に乗り、絵画取引にはまっていった結果、イトマンは許から持ち込まれた絵画まで抱え込む羽目になる。あげく、絵画の購入が負担になり、資金繰りが苦しくなっていく。許永中はまさしく事件の核心人物だといえた。
これまで書いてきたように、許に絵画取引のイロハを教えたのが、アイチの森下安道である。事件当時に流出した絵画リストには、モディリアーニやシャガール、ドガ、日本画では加山又造や東山魁夷、横山大観などの高名な画家の作品がずらりと並んだ。森下は西武「ピサ」とも取引をしてきた。それだけでなく、月光荘事件に見られたように、欧州で仕入れた絵画の大口の売り先が許でもあった。
したがってイトマン事件でも、森下は大阪地検特捜部から何度も事情を聞かれている。イトマン事件とのかかわりでいえば、社長の河村に10億円を融通していた事実も浮かんだ。だが、それらはあくまで彼らの背後にいてビジネスを展開しただけにすぎなかった。そのためこの事件では、逮捕も起訴もされていない。