H君の父親は息子を説得するため、パソコンで検索をかけ、予測検索に出てくる「声優専門学校 闇」といった消極的な文言を見せたそうだ。が、H君はすでに調べ済みで、それを承知のうえで相談しているのだと反論してきたという。彼は彼なりに理論武装していたのだ。

 母親によれば、H君は夏休みに1人で声優専門学校の見学会に参加し、それを機に、親に頑なな姿勢を示すようになったらしい。学校の雰囲気を体感し、声優への憧れをより強固にしたようだ。

声優になるためのトレーニングを提案

 息子が自活する、学費も全部自分で賄うと言えば、親に止める手立てはない。それほどの思いがあるならば、一切の支援をしないこと、ダメだとわかったらその時点で(親が望むなら)大学進学に向かうことを条件に容認せざるを得ない。しかし、実家暮らしで「生活の面倒をみてくれ、学費もお願いします」と言われても、当然ながらすんなり容認はできない。が、勝ち組理論やネットの情報で説得しても、その凝り固まった志望を変えさせることは困難だ。

 私は声優専門学校の現実を説明するなど、いったん父親と協調路線をたどる姿勢を見せつつ、その対処法と善後策を提示した。H君に本当に声優になる気があるのかどうかを検証したあと、彼の進路意識を書き換えてはどうだろうか。両親の話を聞き、私はH君が声優志望というより、自分の人生の先行きに確かな道がなくなっているのではないかと推察していた。そこで、まずは両親が先入観を持たず、本当にH君に声優になる適性や意欲が旺盛にあるならば、いったん彼の進路志望を肯定するよう推奨し、同時に条件を付した。

 まずは、H君にユーチューブなどで声優専門学校に関するなるべく多くの動画を見ることを義務づけること。目的は、本人に学校の実態を、より広く深く把握させるためだ。学費を払う親からすれば、意見が異なる進路選択には条件を付して構わない。H君からすれば、親が譲歩したように見えるだろう。

 次はプロの声優が実践しているトレーニングを一覧表にして、それを日々行うよう義務づけること。プロの訓練は日々毎日である。野球部に所属する高校生は、野球の練習に毎日取り組む。マンガ家志望の高校生ならば隙があれば絵を描く。声優志望と言うならば、そのトレーニングを毎日実践することは、プロのプロたる根拠にもなる。さらに高校生が参加できる声優コンテストの応募も忘れてはならない。エンタメ系のコンテストは、賞を得た者以外に養成学校への入学を促す営業の拠点になっているが、それでも構わない。日々の訓練とコンテスト、それに向けて全力で走るよう要請するのである。