視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のチーフ・エディターである吉川清史が豊富な読書量と取材経験などからレビューします。今回取り上げるのは、政府の成長戦略にも盛り込まれ、SDGs時代の「豊かさ」の指標としても期待される「ウェルビーイング」をテーマとする書籍です。
アイドルたちを「推す」日本人にとっての
ウェルビーイングとは?
昨年末、NHK「紅白歌合戦」をはじめとする歌番組・音楽番組を見て、アイドルグループ(特に男性)の多さにあらためて気づかされた人がいるのではないだろうか。そしてもう一つの傾向として、YouTubeなどで人気となった、匿名性が高く「顔出し」をしないアーティストたちの台頭がある。
今回紹介する『むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました』は、2022年に出版された書籍の中で、個人的に最もインスピレーションを得られた一冊だ。これを読むと、昨今のJ-POP(K-POPも)アーティストの人気の要因が見えてくるかもしれない。
本書では、予防医学研究者の石川善樹氏と、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記氏が、昔話、古事記、アイドルなどの日本文化を分析し、日本人にとってのウェルビーイングの本質に迫っている。
ウェルビーイングという言葉は、時代を読み解くキーワードの一つといえる。2021年6月に政府が発表した「成長戦略実行計画」には「国民がWell-beingを実感できる社会の実現」が明記された。民間でも、トヨタ自動車が2020年中間決算の発表で「幸せを量産する使命」を掲げた。これも、顧客のウェルビーイングを重視する方針にかじを切ったといえるだろう。
だが、ウェルビーイングという言葉自体は、さほど新しい概念ではない。1948年に設立されたWHO(世界保健機関)の憲章前文には、こんな記述がある。「健康とは、単に疾病がない状態ではなく、肉体的・精神的・社会的に完全にウェルビーイング(Well-being)な状態である」。すなわち、今から半世紀以上前に、ウェルビーイングとは身も心も、社会的にも「好ましい状態」にあることだと定義されているのだ。
近年の研究では、「ウェルビーイングは人生全体に対する主観的な評価である『満足』と、日々の体験に基づく『幸福』の2項目によって測定できる」と定義されているという。満足と幸福、この二つが個人の中でそろえば、その人はウェルビーイングである、ということになる。
何に満足し、どういうことに幸福を感じるかは、個々人の価値観や、生まれ育った文化によって異なる。したがって、日本人と米国人のウェルビーイングも違うかたちであるはずだ。では、現代日本人のウェルビーイングとはどういうものなのだろうか。