Webカメラの映像をカイゼンや知識承継に活用する
石川県の中小企業

――デジタルイノベーションデザインの手法を用いながら、中小企業がDXを進める際にポイントとなるのは何でしょうか。

内平 中小企業に限りませんが、五つのポイントが挙げられます。一つ目は「明確なビジョン」です。技術ありきではなく、解決すべき課題や目指すべきビジョンを明確にした上で、課題解決やビジョン達成のためにIoTやAIを活用するということです。

 二つ目は「デジタルの可能性と限界を理解すること」です。まずは経営者自らがデジタルの可能性と限界を適切に理解する必要があります。ソフトウェアのプログラミングまでできる必要はありませんが、セミナーや情報交換会などに積極的に参加して学んでいけば、デジタル技術で何ができるのか、できないことは何かが分かるはずです。その上で、強いリーダーシップを発揮し、部下やITベンダーに指示を出し、DXを徹底して進め、成果を出す覚悟が求められます。

 三つ目は、他人任せにするのではなく、「自ら試行錯誤し、開発すること」です。今はデジタル活用を推進するためのさまざまなツールやプラットフォームがそろっていますから、IoTやAIを使ったシステムを自社で開発することができます。最初から完成度が高いものはできなくても、経営トップと現場が一体となって、試行錯誤のサイクルを高速回転させていけば、完成度が高まっていきます。トップと現場の距離が近い中小企業は、この点において大企業より有利だといえます。そういう成功体験が積み重なることで、DXが自分ごと化し、現場が自ら考えてDXを進めるようになるのが理想です。

 四つ目は、自社で成功したシステムを他社や地域内でも横展開し、仲間を増やすことです。それによって、DXのインパクトがより大きくなっていきます。そして、五つ目は、会社全体でDXを推進する「企業風土づくり」です。企業風土はすぐにできるわけではありませんが、中小企業はトップの意識が現場に浸透しやすいですし、現場の要望をすぐに反映することもできます。トップと現場の溝が埋まりにくい大企業に比べて、企業風土づくりでも有利だといえるのではないでしょうか。

――中小企業におけるDXの先進的な事例をご存じでしたら、紹介していただけませんか。

内平 いろいろありますが、JAIST(北陸先端科学技術大学院大学)の地元である石川県の企業事例を一つだけご紹介しましょう。

 白山市に本社を置く小林製作所は従業員170人ほどで、産業機械や半導体製造装置などの筐体・フレームの精密板金・組み立て・塗装などを手がけています。注文数1個からでも製造しており、その種類は月に数万種類に上るという超少量・超多品種生産が特徴の会社です。

 同社では、この超多品種の製品の受注から出荷までの帳票を管理するシステムを独自開発しました。これによって、例えば半年前に1個だけ注文があった製品でも、新たに受注したら製造すべきものをすぐに特定できるようになったことに加え、各作業者に進捗状況を入力してもらうことで、特定の製品がどこまで作られているかを誰でも把握できるようになりました。

 また、工場の生産現場にはWebカメラを設置して、全ての工程をコマ撮り画像で記録しています。この映像を現場でのカイゼン活動に活用しているほか、カメラ画像と各種入力情報を連携させることで、生産履歴などを可視化する「究極のトレーサビリティ(追跡可能性)」を実現しました。さらには、一つひとつの製品によって異なる作業マニュアルにもカメラ画像を活用し、ノウハウや知識の承継に役立てています。

 これらのシステムは、大手重工メーカー勤務を経て経営を引き継いだ3代目の現社長を中心に自社開発したものです。現場とソフトウェア開発の両方を知る経営者が強いリーダーシップを発揮し、DXを徹底して推し進めたのです。その結果、現場も効果を実感し、ITやデジタルへの認識が変わったそうです。

 小林製作所では、Webカメラを使った作業現場の記録システムを「カイゼンカメラ」として他社に提供するITソリューション事業も行っています。このカイゼンカメラを導入した企業の一つが、工作機械などの溶接・板金加工を行っている南熔工業(石川県小松市)で、海外からの技能実習生の教育・指導などに活用しています。