「今年こそ独学したい!でも、どこから手をつければいいか悩んでいる」そんな人が読んでおきたい書籍とは?『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』著者の読書猿さんに、日本語や英語、科学、数学、歴史、経済など12ジャンルについて「独学を拡張する52冊」をセレクトしてもらいました。選書テーマの背景や、52冊のリストの一部をご紹介します。
独学を始め「自分だけのブックリスト」をつくるための52冊
26万部のベストセラー『独学大全』著者。ブログ「読書猿 Classic: between/beyond readers」主宰。著者の真骨頂である「独学」をテーマにした主著。なお、「大全」のタイトルはトマス・アクィナスの『神学大全』(Summa Theologiae)のように、当該分野の知識全体を注釈し、総合的に組織した上で、初学者が学ぶことができる書物となることを願ってつけたもの。(イラスト:塩川いづみ)
受験勉強や資格試験といった明確なゴールに向けて「どう学ぶのか(HOW)」を知りたいときはもちろん、「何を学ぶのか(WHAT)」を見つけたいとき、「なぜ学ぶのか(WHY)」に立ち返りたいときなどに、まずどんな本を読めばいいのか?『独学大全』の著者読書猿さんに、自分なりの独学を深めるための本を52冊選んでもらいました。
●「選書テーマ」に込めた思いを、読書猿さんから:
学ぶことは変わることだ。人は変わるために学び、また、変化に対応するためにも学ぶ。独学者のためのブックリストもまた、内外の変化によって、また変化に応じて変化を余儀なくされる。
『独学大全』発売から2年の間に世の中は変化し、新しい書物も登場した。このリストはそれらの変化に合わせて、『週刊ダイヤモンド』2021新年号付録をアップデートしたものである。
独学者は、その志も、進むべき経路も、それぞれに異なる。読者のためのブックリストは、最終的には、その学びの中で各独学者みずからが編まなくてはならない。
ここで提示できるのは、多方面へ学びを発展させるために基礎となり、手がかりとなるような書物のリストである。独学者の学びにとってできるかぎり汎用的であるような分野を選び、分野ごとに今読むべき数冊を選定した。自身のブックリストを作る足がかりとなれば幸いである。
52冊のうちの3冊を紹介!
では、選書いただいた52冊の一部と、各ジャンルを学ぶ意義などに関する読書猿さんの解説をご紹介しましょう(実際のブックリストには、書籍ごとの解説は掲載されていません。本解説は読書猿さんのウェブ連載『独学大全学びなおしガイド』から一部を抜粋しています)。
①『ライブ講義 大学1年生のための数学入門』(奈佐原顕郎、講談社)
数学は、史上最も成功した人工言語である。小さな言語コミュニティしか持たないほかの人工言語に比べて、数学の成功は圧倒的だ。ほとんどの科学と科学技術の分野で、そして様々な職業と日常生活で、数学は不可欠な共通言語となっている。
数学が人工言語である以上、私たちの誰も生まれつき数学のできる者はいないし、日常生活で自然に習得できる見込みもない。誰しもが意識的な努力を必要とする。学ぶことが先人の指摘を自分の知恵として利用することなのだとしたら、数学を捨ててしまうことは数学を必要とする大半の知識を諦めてしまうことだ。
まず数学への苦手意識をなくすためには、岩波ジュニア新書などの入門書から入るのがおススメだが、さらに学びを深める書として推薦する。この本の続編で線形代数や微分方程式を扱った応用数学編もある。
②『社会を知るためには』(筒井淳也、筑摩書房)
ヒトは社会において合理的であろうとする。また、合理的であることを強いられる生き物であるが、そうあるための十分な能力を持っているとは言えない。短慮にすぎる人間の仕様は、協力し合うことが長期的に利益をもたらす場合さえも、手近な利益を優先してしまう。さらに、このような性質から、相手を信用しきれず、裏切りの誘惑に負けやすい。
そのため、ヒトが協力し合うには、お互いの合理性を信じ合う“以外”のサポートが必要になる。我々の社会は、思い込みや信仰や伝統といった、必ずしも合理的とは言えないサポートがあって初めて成り立っているのだ。
昨今のように既存勢力への批判によって人気取りをした挙句、焼け野原しか残さないような自称「改革者」がのさばる時代には、我々は当たり前過ぎて見えなくなっているものを知る必要がある。そして、当たり前の中に埋め込まれた知恵を引き出すべきだ。これが社会学を学ぶ意義である。
なかでも本書は、「社会」というものがなぜ捉えどころなく分かりにくいのかを真正面から取り上げ、丁寧に解明してくれる。
③『教養としての認知科学』(鈴木宏昭、東京大学出版会)
「人間はどのような存在であるか」という問いは、古来より繰り返し、様々な立場の人々によって問われてきた。20世紀半ばから、この問題に挑むため、「情報」を手がかりに多くの専門分野を引き入れた探究の場が登場した。この潮流を「認知科学」と呼ぶ。
認知科学は、心理学や神経科学、コンピュータを含む電子工学や情報技術を引き入れ、さらには生態学や現象学、社会学、人類学の伝統によって育まれた状況論までも吸収。教育学を刷新する学習科学を生み出すなど、人間の探究を展開していった。
その結果、明らかになったのは、人間はさほど賢くなく、知的でも理性的でもないということだ。また同時に、知は人間だけに許された特権ではなく、多くの生命がヒトと共通する知性を備えて生き延びてきたこともわかった。
情報の観点から人間の思考や行動を捉え直す認知科学は、どのような利益をもたらすのだろうか。そんな認知科学を学ぶ最初の一冊に本書が最適である。
※読書猿さんのブックリストは、『独学大全』の副読本として読んでいただくにも最適です。読書猿さんが選んだ書籍のテーマは、「日本語」「英語」「数学」「歴史」「地理」「科学」「認知」「宗教」「倫理」「経済」「政治」「社会」と12ジャンルにわたります。この52冊を入り口として、ご自身のブックリスト作成にお役立てください!
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