【最新の認知症治療を実践する脳のカリスマが30年超の長寿研究から導いた幸せな生き方】かつて100歳ブームを巻き起こした『100歳までボケない101の方法 脳とこころのアンチエイジング』の著者で医学博士・白澤卓二が、人生100年時代が現実になった今をよく生きる方法をまとめた『長寿脳──120歳まで健康に生きる方法』が完成。現在の脳のパフォーマンスを上げて、将来寝たきりや認知症にならずに長寿を目指し、人間の限界寿命とされる120歳まで生きる方法を提示します。
毎日すき焼きを食べ続けて105歳! テノール歌手・中川牧三さんの食事
テノール歌手で105歳まで生きた中川牧三さんという音楽家がいらっしゃいます。中川さんは101歳のときにフルオーケストラを指揮したほど、晩年まで脳も体も絶好調でした。
そんな彼は若いころから毎日すき焼きを食べ続けていて、100歳を超えてもすき焼きを食べていました。100歳を超えたころに出演したテレビ番組で「毎日、すき焼きで飽きないですか?」と聞かれて「あと20年はたぶん飽きないだろう」と答えたほどです。
彼が食べていたのは牛肉と玉ねぎだけのすき焼き。
栄養学的に考えると、いろんなものを食べたほうがいいということになるかもしれませんが、100歳を超えてもパワフルに生きている人たちは、言わば「長生きのエリート」なので、栄養とか食べ方とかを超越しちゃっているのではと思う人もいるかもしれないですね。しかし中川牧三さんに限らず、肉を食べている長生きの人は多いものです。
聖路加国際病院の日野原重明先生もお肉が好きでした。「ナイフとフォークを使って、ステーキ肉を食べる」という所作がお気に入りだったようです。もしかしたら両手を使って切って食べることで、頭を使うという意識をお持ちだったかもしれません。
噛むことは脳のジョギング
肉はよく噛まないと飲み込めないので、ステーキを食べると自然に噛む回数が増えます。私は日ごろから「噛むことは脳のジョギング」だと話しているのですが、よく噛むことで、脳で記憶をつかさどる海馬という部分の血流がよくなることがわかっています。血流がよくなればさまざまな栄養物質が届きますから、記憶したり、記憶したものを整理したりするなど、記憶に関する力が活性化します。
若い人からすると、高齢になるとあっさりした魚を好んで食べるようになるイメージがあるかもしれませんね。でも年をとったからといって食べ物の好みが変わるわけではありません。実際のところは、歯が悪くなって肉が噛めなくなったから、食べやすい魚を選びがちになる人が多いという話なんです。
中川牧三さんが毎日食べ続けた、玉ねぎすき焼き
中川さんが毎日食べていたのは、牛肉と玉ねぎだけのすき焼き。京都出身の方だから砂糖をたくさん使っていたと思います。中川さんには砂糖が合っていたのかもしれませんが、私たちがまねするなら、砂糖の代わりに甘酒を使うといいと思います。中川さんは玉ねぎの白い部分だけを食べていたと思いますが、茶色く乾燥した皮の部分を細かく砕いたものを入れるのもおすすめです。
玉ねぎの茶色い部分には、抗酸化作用や血圧を下げる働きがあるケルセチンというフィトケミカルが豊富です。自宅で皮を乾燥させてミキサーなどで粉末状にしたものでもいいし、「ケルセチンパウダー」とか「玉ねぎ皮粉末」といった市販品もあります。ほとんど味に影響せずに健康効果を得られます。
●作り方
すき焼き鍋に牛肉と玉ねぎを入れて焼く。ケルセチンパウダー(あれば)、しょうゆ、日本酒、甘酒を入れて煮る。煮えた肉と玉ねぎに溶き卵をからめて食べる。
●アドバイス
卵はビタミンC以外のおもな栄養が詰まっている完全食品。1日に複数個食べてもコレステロールが上がることはありません。
本原稿は、白澤卓二著『長寿脳──120歳まで健康に生きる方法』からの抜粋です。この本では、科学的に脳を若返らせ、寿命を延ばすことを目指す方法を紹介しています。(次回へ続く)
監修 お茶の水健康長寿クリニック院長・医学博士・医師 白澤卓二
1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大学院医学研究科博士課程修了。現在、お茶の水健康長寿クリニック院長。
白澤卓二(しらさわ・たくじ)
医学博士
1958年神奈川県生まれ。1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大学院医学研究科博士課程修了。東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダーを経て、2007年より2015年まで順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。
2017年よりお茶の水健康長寿クリニック院長、2020年より千葉大学予防医学講座客員教授就任。国際予防医学協会理事長、日本アンチエイジングフード協会理事長、アンチエイジングサイエンスCEOも務める。
専門は寿命制御遺伝子の分子遺伝学、アルツハイマー病の分子生物学、アスリートの遺伝子研究。
【著者からのメッセージ】
科学的に脳を若返らせ、寿命を延ばす人生戦略
2022年9月発表の厚生労働省の統計によると、100歳以上の人口が初めて9万人を超えました。最高齢は115歳です。
私が2010年に文春新書『100歳までボケない101の方法 脳とこころのアンチエイジング』(文藝春秋)という本を上梓したときは、100歳以上の人口は4万4449人でした。この12年で、2倍以上に増えたことになります。
12年前には100歳を超えられるのはごく限られた一部の人だと思われていましたので、『100歳までボケない~』という本のタイトルは世の中に一石を投じたと自負しています。
その後、「人生100年時代」というフレーズが当たり前のように使われるようになりました。100歳を超えて活躍している人たちに注目が集まって、人生100年時代が現実味を帯びてきました。
そして今では、「人生120年」という話もまことしやかに囁かれています。100歳まで生きられるようになったのなら、次は120歳だ! というわけです。
120年の根拠になっているのが、「人の細胞にあるテロメアという部分の寿命が120年だから、うまくすれば120年生きるのは可能だ」という説です。私はこの説には少し違和感を持っていますが、脳の寿命から考えると120年は可能だと思います。
とはいえ、体を120年も元気なまま維持するのは、かなり難しいだろうと思っていました。そんなときに、
「120歳まで健康に生きるにはどうしたらいいですか?」
と問われたのです。
100年生きるのが当たり前の時代になったら、脳と体が健康なまま、もっと長く生きたいと思うのは自然なことかもしれません。
私は東京都老人総合研究所の研究員として、順天堂大学大学院の加齢制御医学講座の教授として、30年以上超高齢者の研究を重ねてきました。100歳を超えた2000人以上の健康に関するデータを取り、聞き取り調査も重ねてきました。
現在は臨床医となって、これまでに知り得た膨大なエビデンスから現実的な方法をすくいとって、患者さんの診療にあたっています。
私が2017年に開院したお茶の水健康長寿クリニックでは、これまでの研究成果を最大限に活用して、アルツハイマー病、認知症、自閉症、統合失調症やアスペルガー症候群などに対して、解毒療法や神経再生治療を組み合わせたプログラムを提供し、脳の治療を行っています。
そこで私は考えました。これまでの膨大な研究成果と、目の前にいる患者さんにアドバイスしていることを組み合わせて、120歳という壁に全力で立ち向かえば、脳も体も健康なまま120歳まで生きられる可能性があるのではないかと。
この本では、その可能性を現実にするための手立てをさまざまな側面から解説し、自信を持って言えることだけを、書き尽くしています。
今のところ120歳を超えた人の記録はありません。
フランス人のジャンヌ・ルイーズ・カルマンさんという女性がギネス世界記録として「122年164日生きた」とされていますが、戸籍の問題から、現在ではこの記録に懐疑的な研究者が多く、真相はわかっていません。2022年4月に亡くなられて世界歴代2位に認定された日本人の田中カ子さんは119歳でした。出生証明が確認できている世界最高齢はいまだ120歳に到達していないのです。それでも、「120歳まで健康に生きる」という強い意志を持ち、現代科学と人の叡智を駆使して、脳と体のどちらもが健やかな状態でいられるように行動すれば、これから数年後には、120歳まで生きる人が次々に出てくるかもしれません。
人生100年どころか、120年と言われはじめた今、120歳まで自分らしく生きられるかどうかは、これからの数十年の日々の暮らしにかかっています。
今40代、50代の人はこれからが勝負です。70代、80代でもあきらめることはありません。まだ先は長いです。
せっかく長生きできる時代に生まれたのですから、健やかな脳と体を保って、最後まで自分らしく生きようではありませんか