リーダーなどマネジメントする立場になると、驚くほど部下からさまざまなことを言われる。「言い訳だな」と思うことや「いいから黙ってやれ」と言い返したくなることもある。しかし、返答の仕方によっては「パワハラだ」と言われる可能性もあるので、どのように返事をしていいか悩む……という人も少なくないだろう。『リーダーの仮面』の著者で、株式会社識学の代表取締役社長である安藤広大氏は、そんな悩みを抱えるリーダー諸君に「言い訳スルー」をすすめている。リーダーが身につけておくべき「言い訳スルー」とはどのような方法か。本記事では本書の内容をもとに、「言い訳スルー」の方法や部下への接し方について解説する。(構成:神代裕子)

リーダーの仮面Photo: Adobe Stock

部下に言われた、思いがけないひと言

それって、私がやらないといけないんですか?」

 会社員時代、実際に筆者が部下から言われたセリフである。

「今忙しいので、締め切りはいつまで延ばせますか?」でもなければ、「こちらの仕事とどちらが優先ですか?」でもない。

「なんで私がやらないといけないんだ」という言葉をぶつけられて、目が点になった。

 驚いて返す言葉が見つからない状態になってしまったし、いまだに「あれはなんと返すのが正解だったのか」と思い返すことがあるのだが、なんとそれに対する返答例が掲載されている本を見つけた。

 それが、本書『リーダーの仮面』だ。

「部下と上司の『位置』」に戻らせる

 ちなみに、この「それって、私がやるべき仕事でしょうか?」というのは「よくある言い訳」として本書に掲載されていた。

 筆者が思う以上に、このような言葉をぶつけられるリーダーは多いのかもしれない。

 なお、この言葉に対する安藤氏の返答は、

「それはあなたが判断することではなく、責任者である私が決めることです」

 である。

 なぜなら、この部下の態度は次のようなものだからだ。

任された仕事を根本から疑うようなケースです。これに対して、きちんと説明すべきかどうか迷うはずです。基本的に、部下に対して仕事をやる意味の説明責任を果たす必要はありません。とはいえ、「いいから黙ってやれ」と簡単に言ってしまうのではなく、部下と上司の「位置」に立ち戻るように説明すればよいでしょう。(中略)そもそも仕事は上から下へと任せていくものです。よほど意味のない仕事を理不尽に押し付けているのであれば問題ですが、普通の業務を任せる限り、いちいち仕事をする意味までを説明する必要はありません。(P.191-192)

 この「部下と上司の『位置』」とは、「それぞれのポジションが果たすべき役割」と言える。

 安藤氏は、上司は、「部下よりも高い位置から未来を見て、未来から逆算して今すべきことを考える」のが役割であり、部下は「直属の上司に評価される存在」であることを自覚すべき、と指摘する。

 日頃から、このスタンスを保つこと。そのことが、スムーズな組織運営につながっているのだ。

リーダーの責任はチームで成果を出すこと

 安藤氏は、「そもそも会社で働くということは、集団で大きな利益を獲得し、獲得した利益を分配するという状態にある」と語る。

メンバーが適切に動けば利益は最大化します。利益を最大化するための方法が集団で動くということです。大企業になればなるほど給料が高くなるのも、そういう訳があります。大きい獲物を狩ると、個人の分け前が増える。それが正しい順番です。(P.156)

 つまり、リーダーは「自分のチームで成果を出す」ということが一番の責任であり、成果が出ないことを恐れなければならないということだ。

「部下に嫌われるかも……」ということを恐れていては、リーダーとしての役割はいつまで経っても果たせない。

 安藤氏は、「リーダーである以上、部下にも『きちんと成果を出さないといけないんだ』という『いい緊張感』を与えることが必要」と提言する。

 そのために安藤氏が提唱するマネジメント方法が「言い訳をなくしていくコミュニケーション」だ。安藤氏はこれを「言い訳スルー」と呼ぶ。 

「言い訳スルー」を身につける

 誰もが、目標を達成できなかった時の報告は「言い訳」をしがちだ。

 ただ、「その『言い訳』に対して、リーダーがどのようなコミュニケーションをとるかで、その部下の成長の度合いは変わってくる」と安藤氏は語る。

「気合いが足りませんでした」
「深く反省し、やる気を出していこうと思います」

 部下からこのような報告があったとする。しかし、これは全てスルーしていいのだという。

初めに結論を言っておくと、「どう感じているか」は個人の感想です。反省させることが目的ではないので、すべて受け流すようにしてください。見るべきポイントは、「次にどのような行動をするか」だけです。(P.188)

大事なのは、具体的な行動を引き出すこと

 では、どのような返答をすればよいか。次のように質問すればいい。

「次は、どうしますか?」
「具体的にどう変えますか?」(P.188)

 このように、「次の具体的な行動を引き出せるまで、妥協せずに詰めることが大事だ」と語る。

 具体的な行動とは「訪問件数を増やしてみます」といった改善策だ。

 ここで、決してやってはいけないのは、部下のモチベーションを上げようとするフィードバックなのだという。

 例えば、「あなたの仕事には、こんな社会的な価値がある」といったメッセージを伝えるようなことはしてはいけない、と安藤氏は注意する。

こういった「自分の人生」や「仕事観」に関わる話は、他人に必ずしも響くことではありません。ヘタをすると、「この人とは価値観が違うな」と、別の言い訳を生み出してしまう可能性すらあります。(P.189)

 なお、「3時間で終わらせるのが難しいので、5時間あればできそうです」などの改善点が明確になっている「言い分」は「情報」として受け取って構わない。

「言い訳」は聞かず目的達成に専念する

 部下の人数だけ、考え方や言い訳がある。そこにいちいち付き合うのではなく、「どうすれば目標を達成できるか」だけに専念する。

 このマインドがあれば、部下からのさまざまな「言い訳」に悩まされずに済みそうだ。

 リーダーとして、何を言い、行動するべきか。思い悩んでいる人にとって、本書はヒントの詰まった一冊になるに違いない。