自宅介護経験者のCEOが後押ししてくれた

 エイブリックCEOの石合信正氏は6年間、義両親と同居して介護をした経験があった。自宅をバリアフリーにするなど最大限にケアしたが、やはり互いに何かと気を使うため、最終的には介護施設を視察して回った。「こういう時にタイムリーに相談できる人がいたらよかった」という思いがあり、新しい施策に取り組む長野氏を後押ししてくれたという。

 子育ての問題に比べ、介護に関しては病状、家族構成、同居・別居、経済状況など状況が千差万別なので、アドバイスを求めることも、することも難しく、一人で抱え込んで悩むことになりやすい。それもあって、「親に何かがあった場合でも、働きたい人は職場を離れることなく働けるようにしたい。そのようにベテラン社員をサポートすることで、結果的に会社の生産性を上げていくようにしたい」と、石合氏は今回の取り組みを高く評価してくれている、と長野氏は話す。

50代社員の5人に1人が親の介護問題を抱えている

 実態をきちんと把握しておこうと考えた長野氏は、昨秋、『多様な働き方アンケート~介護状況調査~』を全社で実施した。調べてみると、親の介護問題を抱えている社員は想像以上に多く、50代以上の社員の2割。さらに、40代以上の社員のほとんどが、近い未来に親がそうなったときの不安を感じていること、仕事と介護の両立は難しいのではないかと考えていることが分かったという。

 仕事と介護は並び立たない、と長野氏は断言する。「例えば、親に介護が必要になったとき。要介護認定の申請手続きは自治体のホームページを見ればどうにか分かる。でも、親とは離れて住んでいるし、親自身は役所の手続きなどおぼつかない。では、(子である)社員が東京にいながら親に代わって手続きできないものかと思っても、具体的にどうすればいいのか、そもそもそんなことが可能かどうかも分からない。そうすると、『仕方ない。有給休暇を取って帰省して、自分で役所に出向いて何とかしよう』となります。一事が万事こんな具合で、事が起きてしまってから何をどうしたらいいのかを自力で調べて解決しようとするのだけれども、勝手の分からない分野なので、答えにたどりつくまでにどうしても手間暇がかかってしまう。すべてが後手後手なんです。そうするうちに、ジレンマやストレスがたまっていく……ということが分かってきました」(長野氏)

 社員が親の介護で悩んでいる、人事部門や労務部門がそれをキャッチしても、具体的に解決してあげられるかというと、現実には難しい。「結局は、『まずはとにかく自治体に相談してみるしかないだろう』となるんです。逆に、会社で相談するという回答はかなり少なくて、1割程度でした」(長野氏)