実際、筆者が相談を受けていても、親を施設に入れることへのためらいや後ろめたさを感じている現役世代はかなり多い。そういう場合は、「もしも将来、あなたが要介護状態になったとき、娘さんや息子さんに介護してほしいですか?」という質問をする。すると100パーセント、「子どもたちにそんなことはさせたくない」と答えるのだ。

 そこで、「そうでしょう? あなたのお父さんお母さんだってきっと同じはずです。わが子に自分の介護をさせたいなどとは決して思っていなかったはずですよ。それに、施設のほうが安心だし快適です。介護や身の回りのことは施設にお願いして、その分、お見舞いに行ったときに優しく寄り添っていてあげるようにしてください」とお伝えすると、皆、ようやく気持ちを固める……というケースが多い。

 心の優しい人ほど、他者に迷惑や負担をかけることを恐縮する傾向があり、親の介護を他人任せにすることに対しても良心の呵責(かしゃく)を覚えてしまうので、こうした声かけが必要になってくるのだ。

誤解されがちな介護休業制度の使い方

 取材の中で、長野氏から筆者への質問が一つあった。「介護休業制度について、ずっと不思議に感じていたことがあります。同制度の利用要件として、『介護対象者が要介護2以上であること』というのがありますよね。私の感覚だと、要介護2というのはかなり重篤な状態ではないかと思うのですが、果たして私たち素人が対応できるようなレベルなのでしょうか?」(長野氏)

 長野氏の疑問は正しい。要介護2以上の親を家族が介護するのは非現実的で、仕事と介護の両立など不可能だ。施設介護に切り替えなければ共倒れになってしまう。介護休業制度についての厚労省の本来のメッセージは、「3カ月あれば、予算や条件に合致した施設を見つけて入所させることが可能でしょう?」ということであり、「仕事を休んで、みずから親の介助をしなさい」では、決してない。このあたりのことが正確に伝わっていないことが問題なのだ。

介護と切り離せない財産管理の問題

 親の介護はプロに頼るべきだという点に加えてもう一つ強調したいのが、「遅くとも要介護2になるまでには財産承継の段取りを済ませてしまう必要がある」ということだ。介護や認知症の問題は、財産分与の問題と切り離せない。

 苦労をして親を入院させたり施設に入れたりできたとして、次は医療費や介護費の支払いがやってくる。親の預金で充当するつもりが、親名義の口座からお金を引き出せず、自分の家計から支払うことになる……というのはよくあるケースだ。

 親の様子がちょっと変だなと感じたら、もの忘れ外来や介護サービスの手続きを行うのと同時並行で、少なくとも親のエンディングまでの支援に想定される費用相当の金額は先に渡しておいてもらわないと、悲惨な事態になってしまう。

 同時に、定期預金は普通預金に振り替えておく。証券類・ゴルフ会員権などは、親の判断能力が完全に損なわれてしまう前に現金化する。さらには、親の家(実家)も売却の下調べをしておいたほうが得策だ。こういったことがいわゆる「終活」のポイントで、この段取りをしないままに親が認知症になってしまうと、結局は面倒を見る子が不利益を被ることになってしまうのだ。