社員・配偶者のみならずそれぞれの親までを視野に

 社員や配偶者のみならず、その親の終活を会社が支援してくれるというエイブリックの取り組みは画期的だ。具体的に、どのような取り組みを行っているのだろうか。

「まずは、アンケート結果の中で要望の多かった専門の相談窓口の開設です。介護をはじめとするきわめてプライベートな相談事項については、人事部門などの社内組織で対応するよりも外部の専門家に委託したほうがいいと思い、老後の諸問題に広く対応してくれる外部のサービスを探しました。昨年12月から社会福祉士事務所と契約して、24時間365日、社員と配偶者、それに直系尊属・直系卑属が、いつでも・なんでも相談できるホットラインを開設しました。電話(フリーダイヤル)だけでなく、LINEやZOOMでも対応してもらえるようになっています。また、有料とはなりますが、相談の延長線で実務代行もお願いできるようにしました。

 加えて、人事部門のポータルサイトでは、円滑な老後や終活の役に立つ情報(テキスト&動画)やリスク診断シートを適宜アップして社員に活用してもらえるよう工夫していきます。春以降は、親御さんにダイレクトに情報を届けたり、各拠点で終活関連のリアルイベントを開催したりすることも計画しています。

 縁あって当社で働いてもらっている社員ですからね。会社として積極的に、社員の老親リスク低減に取り組んでいきます。そのあたりのことは、採用時にも積極的にアピールしていきたいですね」(長野氏)

 実はエイブリックでは、この制度を始めるよりも前に3人の社員が介護休職制度を取得したが、そのうち2人は介護が長引いて退職してしまったのだという。こうしたことがあったからこそ、介護休業制度とは別に、仕事や職場を離れたくないという社員のために、「親に何かがあっても職場を離れずに済む」労務インフラを用意したのだ。

 コロナ禍以来、筆者の事務所にも、40~50代の現役世代からの相談が急増している。そのほとんどが、親の認知症問題と、それに付随する財産管理の問題である。勤務する会社が、福利厚生の一環で社員の老親リスク低減をサポートするという形は、今後の雇用の在り方に一石を投じる可能性が高い。社員満足と企業イメージの両方をアップさせ、特に中途採用などでは人材採用におけるアドバンテージにもなるはずだ。エイブリック社の取り組みには、それほど注目すべき価値を感じている。