デジタル社会の到来により、経験や熟練の価値が相対的に低下したいま、年功制の合理的根拠は薄らいでいる。そのなかで中高年は給与や地位に見合った貢献をしていないのではないかという認識が広がっている。そこへもってきて自分自身がリスクを恐れ、挑戦を避けるだけでなく、若手の頭を押さえるような行動をとると、彼らに対する風当たりはいっそう強くなる。「働かないオジサン」問題が取りざたされるようになったのには、こうした時代背景があると考えられる。いずれにしても「働かないオジサン」問題は大部分が制度の産物だといえよう。

イノベーションを阻む
「挑戦しないほうが得」な構造

 性別もまた、損得勘定に影響を与える要因である。

「2022年ウェブ調査」の「仕事で失敗のリスクを冒してまでチャレンジしないほうが得だと思いますか?」という質問に、「そう思う」「どちらかといえば、そう思う」と回答した人は男性の61.2%に比べ、女性は69.9%と高い。

 また「自ら転職や独立をしないほうが得だと思いますか?」という質問にも、「そう思う」「どちらかといえば、そう思う」の合計が男性は43.0%だったのに対し、女性は49.4%と高くなっている。女性のほうが男性に比べ、仕事上の挑戦や転職・独立をしないほうが得だと思っている理由として、つぎの二つが考えられる。

 1つは、男性と女性の仕事内容に差があり、挑戦して獲得できるかもしれない利得が女性は男性より小さいこと。あるいは制度・慣行その他のハンディにより、挑戦して成功する確率が低いこと。もう1つは、挑戦すること、あるいは挑戦して失敗したときの負の利得(損失)が男性より大きいことである。いずれも実際にそうかどうかは別にして、そう考えられているのだろう。要するに挑戦しても割に合わないと思う傾向が、女性にいっそう顕著だといえる。

 ここまで述べてきたように日本企業では「挑戦しないほうが得」な構造になっており、それが社員を保守的、消極的にしている。