変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。同書から抜粋している本連載の書下ろし特別編をお届けする。

「炎上するプロジェクト」でやりがちな、たった1つのミスとは?Photo: Adobe Stock

炎上しているプロジェクトに人を追加すると、より炎上する

 皆さんは、何らかのプロジェクトに従事したことはありますか?

 プロジェクトとは、決められた期日や予算の中で、特定の目的を達成するための活動です。例えば、「2030年までに、2000億円の予算で競技場を完成させる」「会社紹介をするためのYouTubeチャンネルを、3人のメンバーで4月までにリリースする」などです。

 通常プロジェクトは開始前に計画書を作成しますが、多くの場合において計画通りには進まないものです。「プロジェクトに必要な資材が取引先から届かない」「メンバーが体調不良で長期離脱した」といった不測の事態でプロジェクトの計画が大きく狂い、炎上してしまうこともあります。

 その際にプロジェクトの炎上を何とか鎮火しようとしてメンバーを追加すると、より炎上してしまう危険性があります。

人が1人増えるたびに、生産性は低下する

 寝る間もなく働いているプロジェクトマネジャーやメンバーとしては、メンバーの増員は本来ありがたいはずです。それなのに、なぜさらなる炎上の危険があるのでしょうか?

 皆さんの組織に新人が加わったときのことを思い出してください。その新人が加入したことによって、理論上は一人当たりの仕事量が減るように思います。では、残りのメンバーの残業時間は新人の加入によって大幅に削減されたでしょうか。

 もちろん、スーパーマンのような新人が入ったことによって全員の残業時間がゼロになる可能性はありますが、ほとんどの場合、人数が増えたにもかかわらず、全員の残業時間は変わりません。

 また、今度その新人を異動させると、不思議なことに、それまで回っていた仕事が全く回らなくなることに気づかされるはずです。これは、人間が新たに仕事を生み出していることに起因しています。

人数を減らすことで、プロジェクトは効率化される

 私は過去、複数の炎上しているシステム開発プロジェクトの立て直しに従事したことがありますが、まず初めにすることは人を減らすことです。なぜならば、炎上しているプロジェクトの多くのは、プロジェクトマネジャーの「プログラマーが足りないからプロジェクトが遅延している」という一言により人員が追加され、より炎上しているからです。

 逆に、人数を減らすことで、無駄が省かれてプロジェクトが効率化することがほとんどです。

 もしプロジェクトが炎上していたら、増員する前に、まずは何が原因で炎上しているかを特定しましょう。原因を特定し、増員が鎮火に有効だと判断したのならば、プロジェクトにメンバーを追加することも手段の一つとして検討しましょう。

アジャイル仕事術』では、プロジェクトを円滑に進める方法以外にも、働き方をバージョンアップするための技術をたくさん紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。