流山市の良さをアピールする
ターゲットはDEWKS

書影『流山がすごい』(新潮新書)『流山がすごい』(新潮新書)
大西康之 著

 では、「緑が多い。住宅にゆとりがある。都心まで最短20分」という流山市の良さを誰にアピールするのか。井崎はいわゆるDEWKS(共働きの子育て世帯)をメインターゲットに定めた。バブル期に消費財を手がける企業の多くは可処分所得の多いDINKS(共働きで子供なし)をターゲットにした。しかし少子高齢化時代に5年後、10年後の街づくりを考えた時、街を活性化させてくれるのはDEWKSだろう。井崎はそう考えた。

 実際に流山市を変えるには、こうした井崎のアイデアを行政に落とし込まなくてはならない。実務に長けた相棒が必要だった。6月定例市議会で市保健福祉部次長兼障害者支援課長の石原重雄を助役(現副市長)に充てることを提案した。当時の市役所には部長職が16人、次長職が21人おり、52歳の石原は1年ほど前に次長になったばかり。36人抜きの大抜擢である。

 前例を踏襲すれば古参の部長職から選ぶべきだったが、市長に就任してすぐ始めたマーケティングの勉強会で幹部たちの反応を見ていた井崎は、あえて最若手の石原を選んだ。

 多くの幹部はこれまでの経験から物事を判断し、それを実施することがいかに難しいかを延々と述べる「評論家」だった。だが石原は前例のない井崎の提案を「現実の役所の仕事として、どうやったら実現できるか」という方向で、実現に向けて行動してくれた。

 新聞は地方版で「若手を抜擢」と書いたが、民間の世界、海外を知る井崎にとっては49歳の自分も52歳の石原も「若手」ではない。市役所で約30年の実務経験を持つ石原は地方行政の仕組みに通じた頼もしい相棒だ。

 井崎は思いついたアイデアはまず石原にぶつけて反応を見る。石原は行政の仕組みや法律の解釈の枠の中で、どうやったらそれが実現するかを考える。石原は企画力や想像力に富む役人で、時には井崎が「そうきたか!」と驚くような解決策を見つけ出してきた。大抜擢から19年間、石原は市政のキーマンとして今も井崎を支え続けている。