メルセデス・ベンツ「EQS 450+」は威風堂々
BYD「ATTO 3」はマイルド

 メルセデス・ベンツ「EQS 450+」は、EQブランドにおける最上級セダンであり、その名の通りこれまでの「Sクラス」に相当するモデルだ。

写真:メルセデス・ベンツ「EQS 450+」メルセデス・ベンツ「EQS 450+」(左)と「EQE」(右) Photo by K.M.

 筆者は80年代から、正規のメルセデス・ベンツはもとより、ブラバス、ロリンザー、カールソンなど90年代に世界的なトレンドとなったチューニングメルセデス・ベンツなどを含めて、ドイツ国内を主体に世界各地で数多くのモデルに試乗してきた。

 そうしたこれまでの体感を基に「EQS450+」に乗ると、「確かにSクラスの味わい」を感じる。つまり、大きなクルマだがソフトな感覚で素直かつ威風堂々に動く、というSクラスらしさだ。

 これに加えて、想像以上に「鼻がイン側に向く」。これは、自動車の開発者がよく使うハンドリングに対する表現のひとつだが、コーナーの入り口で、ハンドル操作に対してクルマがスゥーとコーナーの内側に自然に入っていく様子を指す。

 EVは重量のある大型蓄電池を車体下部に置いているため、必然的に低重心となり、ハンドリングが良くなるのは一般的に言われていることだ。しかし、この後に4台を乗った感想と照らし合わせても、「EQS 450+」のハンドリングは、クルマとして実に軽やかだった。

 メルセデス・ベンツは、SクラスがEVになったとき、それをどのように表現するべきかをゼロベースで検討してきたといえる。従来のSクラスの延長上という発想では、この外観、このインテリア、そしてこの走り味は生まれなかったと思う。

 さらに、従来のSクラスではなし得なかった、ドライバー自らが動力性能を極めて大きく可変させるモーター制御を主体する機能については、その体感としてSクラスの幅が広がった感じだが、けっしてSクラスらしさからは逸脱していない。

 またインテリアでは、ディスプレイという表現では収まり切らないような、UX(ユーザー・エクスペリエンス)に最初は圧倒されるが、30分も走ると徐々にこちらの感覚がなじんでいった。

 2台目は、中国から黒船来襲といった切り口での報道が最近多い、BYD「ATTO 3」だ。

 乗り味も走り味も「マイルド」と表現するのが妥当だろう。確かに、モーター駆動によるEVであるが、ガソリン車やハイブリッド車などから乗り換えても違和感がない人が少なくないはずだ。

写真:BYD「ATTO 3」の外装BYD「ATTO 3」の外装 Photo by K.M.
写真:BYD「ATTO 3」の内装BYD「ATTO 3」の内装 Photo by K.M.

 また、「中国車」という日本人にとって未知の領域に対する不安は、試乗している限り、ほとんど感じない。

 インテリアの各所には、いわゆる“遊び心”がある造形や手法を凝らす。これは、見方によってはオモチャっぽく感じる人がいるかもしれないが、走行しながら感じるのは気軽さと楽しさであり、これが直近のBYDの世界観なのだと思う。

 筆者は2010年代前半、BYDが電動車事業に参入して間もない頃から、BYDの本拠地である中国・深センでEVの「e6」を試乗したのを皮切りに、BYDの電動車の進化を継続的に中国で見てきた。

 当初のBYD電動車は、クルマとしての一体感、つまりBYD独自の世界観が乏しいと感じた。それが、10年代中盤から後半にかけて、中国政府によるNEV(新エネルギー車)政策によるEV市場拡大に伴い、商品開発能力のバランスが良くなった。

 そもそも、BYDは電池事業が中核だった企業であり、日本を含めてEVバスのシェアも高い。より多くのBYDのEVが世に出回ることで、BYDの世界観が確立されてきたのだと思う。

 日本市場での今後については、販売店の顧客サービスの質と、クルマ本体の経年による質がどの程度保たれるかが、BYDのブランド価値に大きく影響することになるだろう。