「『アイム・ア・ピンク・トゥースブラッシュ、ユーアー・ア・ブルー・トゥースブラッシュ』とか――そんなものですら、どこかで僕らに影響を与えてるんじゃないかな。こっちが望むかどうかは別としてね。そういうものすべてが何らかの形で僕の中に入っていて、どこかでふっと顔を覗かせるんだよ」(『THE BEATLESアンソロジー』P26)

 彼が引き合いに出した「アイム・ア・ピンク・トゥースブラッシュ」はEMIのパーロフォン・レーベルが1953年に子供向けに発売したコミカルな歯磨き歌で、マックス・バイグレイヴスが子供たちと一緒にうたっていました。ジョージが影響を受けた例としてあげているのは、「イエロー・サブマリン」の中盤あたりの音の遊び、ブクブクという気泡の効果音やおしゃべりの部分です。

 サイケデリック・ロックと解釈されることもあった「イエロー・サブマリン」ですが、この曲は幼児向けの歌として発想されたものでした。それまでの常識からすれば、ロック・バンドが幼児向けの歌を作ること自体が「マジか?」「ダセー!」と思われたでしょう。しかし彼らはもとから好きだったユーモアやナンセンスな言葉遊びを生かして子供向けの歌がロックになることを納得させたわけです。

父親も祖父も音楽家だった
ポール・マッカートニー

 ポール・マッカートニーの父親ジムは若いころジミー・マック・ジャズ・バンド(ジム・マックス・バンドという表記も見かけます)を結成してトランペットを吹いていました。伯父のジャックは同じ楽団のトロンボーン奏者でした。

 第二次世界大戦後、父親はバンド活動を止めていましたが、家にあるピアノをよく弾いていました。聞いた曲としてポールは「ララバイ・オブ・ザ・リーブス」「ステアウェイ・トゥ・パラダイス」「スタンブリング」「ベイビー・フェイス」などをあげています。ポールも、父親にすすめられて、家のパーティでピアノを弾くことがありました。「レッド・レッド・ロビン」「キャロライナ・ムーン」などです。年上のいとこのエリザベスは「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「フィーヴァー」「ティル・ゼア・ウォズ・ユー」などを聞かせてくれたとも語っています(『THE BEATLESアンソロジー』P18~19、22)