電力バトルロイヤル#5Photo:PIXTA

大手電力4社によるカルテル事件で処分を受ける見込みの中国、中部、九州の大手電力3社には、課徴金の支払いが済んでも、歴代経営陣に対する株主代表訴訟の提起は避けられそうにない。そして、歴代経営陣は巨額の損害賠償金の支払いを求められる可能性もあるのだ。特集『電力バトルロイヤル』(全6回)の#5では、現時点で判明している各社への課徴金案をベースに、歴代経営陣の「自己破産デッドライン」を予想した。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

巨額の課徴金納付命令が間近
気になる「保険カバー範囲」

 前代未聞の大手電力4社が絡んだカルテル事件は、今春にも各社に対し巨額の課徴金納付命令が出る見込みだ。

 2022年12月に公正取引委員会が各社に提示した課徴金案は、最大の中国電力が707億円。次いで中部電力275億円、九州電力27億円となった。公取委の立ち入り検査前に自主申告していたとみられる関西電力は、減免制度を100%享受して「ゼロ」となるもようだ。

 現在は関電を除く3社は意見聴取と呼ばれる段階にあり、公取委が課徴金算定に適用した市場規模、証拠の解釈などを巡って、やりとりをしているもようだ。

「よほどの事実誤認を電力会社が公取委に指摘して認めさせない限り、課徴金案の時点からの減額はない」。独占禁止法に詳しいある識者はそうみる。

 課徴金はいったん納付しなければならないが、電力各社は課徴金額に不服があれば裁判を提起することもできる。勝訴すれば取り返すこともできるのだ。

 だが前出の識者によれば、過去の“勝率”は厳しいものがある。加えて、公の法廷で役員らの密室のやりとりが暴露されることも覚悟せねばならない。つまり、さらに企業の信用を損なう「レピュテーションリスク」にさらされることになるのだ。

 気になるのは「これほどの巨額キャッシュをどう捻出するのか」だ。2月9日に開かれた中国電の規制料金値上げに関する公聴会でも、陳述人から素朴な疑問として挙がった。

 もちろんいったんは特別損失を計上して会社の財布から消えるのだが、会社の価値が損なわれたことに対して株主が黙っていないだろう。株主らは、監査等委員や監査役に対して役員らの責任を追及する訴訟を起こすよう求めるはずだ。そして、監査等委員らが応じなければ、株主代表訴訟の提起が待っている。

 株主代表訴訟になっても、役員らが自ら全額弁済するとは限らない。会社役員賠償責任保険という保険が存在するのだ。課徴金による特別損失を直接補填するわけではないが、株主代表訴訟を起こされた場合、役員らが会社に支払う賠償額を補填することがある。

 ダイヤモンド編集部が、現時点で明らかになっている各社の課徴金案をベースに歴代経営陣に求められる可能性のある賠償額を独自に予想したところ、賠償額は1人当たり数十億円にも上る可能性があることが分かった。

 また、そもそも上記の保険が適用されるかどうかの見通しに加え、別のカルテル事件の株主代表訴訟の過去事例を基に、株主との和解シナリオの存在も明らかにする。多くの役員が自己破産――。そんな結末となりそうなのか。