「世界史とは、戦争の歴史です」。そう語るのは、現役東大生集団の東大カルペ・ディエムだ。全国複数の高校で学習指導を行う彼らが、「戦争」を切り口に、世界史の流れをわかりやすく解説した『東大生が教える 戦争超全史』が3月1日に刊行される。世界史、現代情勢を理解するうえで超重要な戦争・反乱・革命・紛争を、「地域別」にたどった、教養にも受験にも効く一冊だ。古代の戦争からウクライナ戦争まで、約140の戦争が掲載された、まさに「全史」と呼ぶにふさわしい教養書である。元外務省主任分析官である佐藤優氏も絶賛の声を寄せる本書の内容の一部を、今回は特別に公開する。
近代的な戦争の分岐点となった「クリミア戦争」
1853~56年、これまでたびたび繰り返されてきたロシアの南下を防ごうと、ロシアと列強が正面からぶつかりあいました。これがクリミア戦争です。
黒海から地中海に抜ける航行ルートを確保しようとしたロシアは、当時その周辺を支配していたオスマン帝国に宣戦布告しました。
これに対して、ロシアの南下を抑えたいイギリスと、オスマン帝国に多額のお金を貸していたフランスが、オスマン帝国側で参戦します。4つの大国が絡み合ったクリミア戦争は、「19世紀の一大事件」と言っても過言ではないほど苛烈なものになりました。
このクリミア戦争は、初めての近代的戦争といわれることがあります。ここでは、新式の銃や鉄道、蒸気船などの技術に加え、電報や新聞による情報伝達、軍事医学が活用されるなど、戦争が一気に近代化したのです。それゆえ、ロシア軍兵士だけでも約50万人の死者が出たといわれています。戦闘による負傷そのものではなく、治療が不十分なことで病死するケースも多かったようです。
ナイチンゲールの「裏の顔」とは?
そしてこれは本書では触れませんでしたが、ここで活躍したのが、かの有名なナイチンゲールです。
クリミア戦争が多くの死者を生み出した要因の一つに、戦場での不衛生な治療環境がありました。
この状況に憤り、清潔な病棟で効率的な医療を提供しようとしたのが、「クリミアの天使」と言われたナイチンゲールなのです。イギリス人の彼女は、クリミア戦争で看護師チームを率いて、イギリス軍の手当に従事しました。
ナイチンゲールと聞くと、「天使」の呼び名から優しく穏やかなイメージを持つ人もいるかも知れません。しかし実際は、彼女はイギリス人将校たちに対して一歩も引かずに戦時病院のあり方について意見したことでも有名です。
また彼女には、戦死者などに関するデータを分析し、負傷後の治療が不十分なことが兵士の死因だと突き止めたという功績もあります。実は、ナイチンゲールは統計学者としての顔を持ち合わせていたのです。
裕福な家庭で生まれた彼女は、幼少期から英才教育を施され、「近代統計学の祖」と呼ばれるケトレーの強い影響を受けるなど、当時最先端の数学・統計学を学んでいました。
(本原稿は、『東大生が教える戦争超全史』の内容を抜粋・編集したものです)
東大カルペ・ディエム
現役の東大生集団。貧困家庭で週3日アルバイトをしながら合格した東大生や地方公立高校で東大模試1位になった東大生など、多くの「逆転合格」をした現役東大生が集い、全国複数の学校でワークショップや講演会を実施している。年間1000人以上の生徒に学習指導を行う。著書に『東大生が教える戦争超全史』(ダイヤモンド社)などがある。