日本史の偉人の「すごい」と「やばい」を対比させ、今まで広く知られていなかったレアなエピソードまでクローズアップして紹介した書籍『東大教授がおしえる さらに!やばい日本史』。
本書の人気の理由は「思わず人に話したくなる」トリビア感。歴史が苦手な初学者でもわかりやすいと評判だ。
今回は、本書のなかから「勝海舟」について抜粋・編集してお届けする。
坂本龍馬を育て、江戸を戦争から守った「勝海舟」
勝海舟は蘭学を猛勉強し航海術を学んで、37才のときに幕府からアメリカに派遣されます。帰国後は「神戸海軍操練所」を作って、坂本龍馬はじめ多くの生徒に軍艦の操縦を教えました。
その後幕府の力がおとろえると、「大政奉還」によって将軍から天皇に政権が返されます。しかし、徳川家を徹底的にぶっ潰したい薩摩藩(鹿児島)率いる新政府軍は江戸城を包囲。
あわや血の海という大ピンチを救ったのが、幕府の役人だった海舟です。
「無駄な戦いで人を死なせるのはバカだ」と考えた海舟は、薩摩藩の西郷隆盛を説得。総攻撃を中止させて、江戸の町と将軍の命を守ったのです。
維新後、海舟は明治政府の重要ポジションにつき、政府に意見しつづけました。
だけど、こんな一面も……。
艦長なのに、船酔いで役に立たない
海舟は幕府がアメリカに送る使節の護衛艦・咸臨丸の艦長でしたが、じつはものすごい船酔い体質でした。
おまけに出発当日は熱まであり、完全にダウン。しかたなく同乗のアメリカ海軍大尉に指揮権をゆずりました。
でも、談話集『氷川清話』では「日本人だけで軍艦に乗ってサンフランシスコまで来たのは君たちが初めてだ、とアメリカ人たちは褒めた」と語り、アメリカ軍に助けられたことはさらっとスルー。
「日本人だけで偉業を成しとげた!」と見栄を張りたかったのでしょうが、話を盛りすぎです。
ちなみに、同じ船に乗っていた福沢諭吉にも「航海中は病人同様、自分の部屋の外に出ることはできなかった」と見事にバラされています。
「やばい」から学ぶと、歴史はおもしろい
『さらに! やばい日本史』では、日本史の偉人の「すごい」ところと、意外な「やばい」側面を紹介しています。失敗したり、まわりから変な目で見られたり。偉人だって人間ですから「やばい」ところは何かしらあります。
歴史がニガテな人こそ、「やばい」からもう一度日本史に入門してみてください。
東京都出身。東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。大河ドラマ『平清盛』など、ドラマ、アニメ、漫画の時代考証にも携わっている。おもな著書に『新・中世王権論』『日本史のツボ』(ともに文藝春秋)、『戦いの日本史』(KADOKAWA)、『戦国武将の明暗』(新潮社)など。監修を務めた『東大教授がおしえる やばい日本史』はシリーズ69万部のベストセラー。最新刊『東大教授がおしえる さらに!やばい日本史』も好評発売中だ。