近年、「頭の回転の速さの象徴」としてお笑い芸人が多くの場面で活躍をしている。そんなあらゆるジャンルで活躍をし続けるお笑い芸人たちをこれまで30年間指導し、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも話題になった伝説のお笑い講師・本多正識氏による『1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』が発刊された。ナインティナインや中川家、キングコング、かまいたちなど今をときめく芸人たちがその門を叩いてきた「NSC(吉本総合芸能学院)」で本多氏が教えてきた内容をビジネスパーソン向けにアレンジした本書は西野亮廣氏、濱家隆一氏(かまいたち)、山内健司氏(かまいたち)などからも絶賛されている。本記事では、『1秒で答えをつくる力 お笑い芸人が学ぶ「切り返し」のプロになる48の技術』より、本文の一部を抜粋・再編集しお届けする。
人が多い場所では「笑いづらい」
お笑いの世界には前説というものがあります。舞台でもテレビの収録でもお客さんがいる場合は、本番に向けて場を温めるために若手芸人やフロアディレクターなどが注意事項を伝えながら簡単なネタを披露することです。
ネタを交えながら注意事項等を説明し客席をいい空気に温めます。前説がなければ、本番をスムーズに進めることはできません。なぜなら、多くの人にとって笑うということはハードルが高いからです。
家のなかでひとりでお笑い番組を見て笑うのと実際の劇場で周りに人がいながら笑うのはまったくの別物です。
周りに人がいると多くの人は緊張してしまい、自分だけが笑ってしまったら恥ずかしいと無意識に思うものです。ですから、そういった人たちに「笑ってもいいですよ」と前説では許可証を発行してあげなければなりません。
これだけ重要な前説というものを必ず若手が経験するのはただ単に本番未満の実力だからではありません。自分たちのことを知らないお客さんに対して心を開いてもらうことをゼロから覚えるためです。
本番に出てくる先輩芸人たちは有名なこともあり、舞台に出てくるだけで客席は盛り上がります。ですが、はじめましての若手芸人に対してはなんの知識も持っていないので、どんなネタをするのか、どんな芸風なのか、どこで笑っていいのかすらもわかりません。
そういったゼロの状態からしっかりと自分たちのことを覚えてもらいながら本番で笑ってもらえるようにパスを出す。このことができるようになれば自然と本番でチャンスをもらえる日がくるわけです。
空気を温めることで何気ない会話もはずむ
私は、はじめましての人との会話も同じように場を温めることが大事なのではないかと感じています。どういうことかというと、会話のキャッチボールをはじめるときに、相手がボールを投げやすい空気をつくることで、スムーズに会話が弾んでいきます。なかなか会話が弾まないとき、相手は自分に心を開いていません。そんなときになんの工夫もなく話を進めようとしても効果的ではないでしょう。状況を把握し、まずは、相手が話しやすい空気をつくることが大事だと思います。
つまり、前説と同じように自分の発言に対して「反応していいですよ、気になったことがあれば質問していいですよ」という許可証がここでも必要になるということです。コミュニケーション能力が高い人はこの空気づくりが抜群にうまいように思います。「今日は電車で来られたんですか?」「今日は暖かいですよね」など相手が答えやすいちいさな質問をすることでスムーズに会話をはじめることができるのでしょう。
相手の緊張を解きほぐすことで、自分の話を聞いてもらえる確率はぐっと上がります。しっかりと空気づくりができるように心がけていきましょう。
ちなみに、前説といえば、次長課長のエピソードがあります。2人が『さんまのスーパーからくりTV』の前説をしていたときのことです。
前説でも客席を沸かせていた2人は、たまたま見ていたさんまさんに「よう頑張っとんな」と認められて、翌週からいきなりパネラー席のゲストとして迎えられるようになりました。
また、しゃべくり漫才の第一人者となった和牛の2人は私が構成をしていたトミーズの番組で前説を担当していたときに、お客さんへの注意事項の説明や盛り上げ方が他の番組のディレクターの目に留まり、徐々に仕事を増やしていきました。
普通は
A:「注意事項があります」
B:「よく聞いてくださいね」
程度で進めていきますが彼らは、
川西:「注意事項があります」
水田:「守らないと今日は家には帰れません」
川西:「帰したげて、ずっとスタジオにおられても迷惑やし」
という風に前説を、ただの前説では終わらせず、漫才風に仕立てて大いに盛り上げてくれました。