不安の原因は自らの内にある
吉村:コロナ禍で、医療者の出す情報が信じられないという人たちがいますが、その背景には個々人の抱く漠然とした不安がある。自らの不安自体には目が向かず、見つめられていないから、不安を解消してくれるような情報に引っぱり込まれてしまう。
かれらだって、普段から医者を信頼していないわけじゃないと思います。風邪を引けば病院に行って薬をもらっているのに、ことコロナになると変な反応が起きてしまう。それはわからないからですよね。「お医者さんもどうせわからないんでしょ」と影響力のある人が発信するので、そこに乗っかる人が増えていく。
医療者が正しい情報を出せば出すほど怪しく感じる、このドグマに陥る原因は一体何なのか。その答えは自分で見つけて行かなければならないのですが、かれらにはその過程を支えてくれるコミュニティが不足している。
標準治療の正しさは、トライアンドエラーの積み重ねによって獲得した正しさです。でもかれらはトライアンドエラーの初期段階の失敗をわざわざ持ち出して、「やっぱ違うじゃん」と納得することで、自らの不安を解消しているんです。
浅生:不安の原因は外にあるのではなく、自分の中にあるということですよね。
吉村:はい。そこを勘違いして、外に不安の要素を探してしまうからおかしなことになるのだと思います。
あたふたすることは寄り添うこと
市原:この座談会の冒頭で触れましたが、昇洋さんが異世界転生ものの漫画を好んでご覧になっているというポットキャストを聞いて、中でも記憶に残っているのが、交通事故で亡くなった男の子のお母さんが、息子が異世界に転生するなら私もしたいと、どうしたら転生できるかを学生時代の同級生のオタクに聞きにいくという物語の話で。度肝を抜かれました。
吉村:『私の息子が異世界転生したっぽい』(かねもと作)という作品ですね。これは、息子を亡くしてすごくしんどい状態のときに会いにいくのが、コミュ障のオタクだというところが絶妙なんですよ。
市原:ああ、なるほど!
吉村:コミュ障だからズケズケいけなくて、あたふたする(笑)。でもこのうまく処理できなくてあたふたするというあり方が、実は「聴く」こと、寄り添うことにつながっているんですよね、あの作品では。相手をいかに否定せず、寄り添えるかが重要なんです。
市原:ああ、素晴らしい。ありがとうございます。「ケア」とか「寄り添う」という言葉は最近流行っていて、使われ方に軽さを感じることも多かったのですが、今日の座談会では全然違う音色で聞こえてきて、感激でした。とても面白かったです。
浅生:いい時間でしたね。皆さんも、モヤモヤが多少は解消されたのではないでしょうか。そしてモヤモヤはあっていい、自分のその状態をちゃんと見ることが大事なんだなと今日のお話を聞いて感じました。ありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
作家、広告プランナー
1971年、神戸市生まれ。たいていのことは苦手。ゲーム、レコード、デザイン、広告、演劇、イベント、放送などさまざまな業界・職種を経た後、現在は執筆活動を中心に、広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手掛けている。主な著書に、『中の人などいない』『アグニオン』『二・二六』(新潮社)、『猫たちの色メガネ』(KADOKAWA)、『伴走者』(講談社)、『どこでもない場所』(左右社)、『だから僕は、ググらない』(大和出版)、『雑文御免』『うっかり失敬』(ネコノス)、近年、同人活動もはじめ『異人と同人』『雨は五分後にやんで』などを展開中。座右の銘は「棚からぼた餅」。最新作は『あざらしのひと』(ネコノス)、『ぼくらは嘘でつながっている。』(ダイヤモンド社)など。
曹洞宗八屋山普門寺副住職。公認心理師/臨床心理士。相愛大学 非常勤講師
1977年3月、広島県生まれ。仏教学修士を取得後、永平寺にて修行。その後、臨床心理学修士を取得し、現在は心理臨床家として地元の精神病院に勤務。その傍ら、禅と臨床心理学、マインドフルネス、禅の掃除、精進料理、仏教マンガなど、多岐にわたる分野の研究、執筆、講演を行う。近著に『心とくらしが整う禅の教え』(オレンジページ)、『精進料理考』(春秋社)など。
1978年生まれ。医師、博士(医学)。病理専門医・研修指導医、臨床検査管理医、細胞診専門医。Twitter:病理医ヤンデル(@Dr_yandel)。著書に『Dr.ヤンデルの病院選び ヤムリエの作法』(丸善出版)、『病理医ヤンデル先生の医者・病院・病気のリアル』(だいわ文庫)、『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)、『ヤンデル先生のようこそ! 病理医の日常へ』(清流出版)、『まちカドかがく』(ネコノス)ほか。
古典文学から漫画や政治問題まで、さまざまなツイートで人気を得ており、フォロワー数は20万人を超える。本業は編集者。
川崎市立井田病院 腫瘍内科 部長。一般社団法人プラスケア代表理事
2005年北海道大学卒。室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、2007年から川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修。2012年から現職。現在は抗がん剤治療を中心に、緩和ケアチームや在宅診療にも関わる。また一方で、一般社団法人プラスケアを2017年に立ち上げ代表理事に就任。「暮らしの保健室」「社会的処方研究所」の運営を中心に、地域での活動に取り組む。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。著書に『だから、もう眠らせてほしい(晶文社)』『社会的処方(学芸出版社)』などがある。
(※本原稿は、2022年8月20日、21日に開催されたオンライン配信を元に記事化したものです)