今、この瞬間の現実を見つめる

浅生:やっぱり今この瞬間の自分を丁寧に見ることが大事なのかな。今何を感じているとか、どこが痛いといったことに目をつむらず、丁寧に自分の中を見る作業が、「知る」ことへの第一歩なんでしょう。昇洋さんがなさっている認知行動療法やマインドフルネスもそのやり方の1つなのだと思います。

吉村:そうですね。マインドフルネスの元になった禅やヴィパッサナー瞑想は、まさに今この瞬間をしっかりと見つめることを基本にしています。これは禅宗に限らず仏教全般が大事にしていることです。

 私たちは、過去や未来にとらわれすぎてしまっている。過去も未来も今の自分がどうにかできるものではないのに、必要以上に現実視しちゃうんですよね。現実というのは今この瞬間にしかありません。目の前の鉛筆を触っているのは今この瞬間でしかない。

 過去に触った事実は残っても、その体験を再現することはできないのですから。今この瞬間という現実をしっかりと見つめていきましょうというのが、仏法の基本です。

市原:ああ、このOSほしいなあ。

吉村:初期仏教の「八正道」、8つの修行徳目の最初に「正しく見る」を意味する「正見」が来るのもそのためです。正見を無視したらあとの7つの意味がない。

 今この瞬間に「正しく見る」ことをいかに意識できるかは、それほど大事なことなのです。

浅生:僕は猫を飼っているのですが、猫は過去も未来も考えないんですよね。本当に今この瞬間の反応だけで生きていて、「生老病死」の苦がない。つまり僕は猫になりたい。

一同:(笑)

浅生:どうすれば今この瞬間のことだけを考えて生きられるんだろうと常日頃から思っているのですが、やっぱり人間は住宅ローンがなあとか、先のことを考えてしまうわけですよ。

西:なんで住宅ローン(笑)。

浅生:まあでも、今この瞬間をちゃんと認識していくことに、「生老病死」を正しく捉えることを含め、ものを考えるベースを作るヒントがある気がしますね。