「一般の人たちに医療情報をやさしく伝えたい」。SNSで情報発信を続ける有志の医師4人(アカウント名、大塚篤司、外科医けいゆう、ほむほむ@アレルギー専門医、病理医ヤンデル)を中心にした「SNS医療のカタチ」。2022年8月「SNS医療のカタチ2022~医療の分断を考える~」というオンラインイベントが開催された。
生まれてから死ぬまで、どんな形であれ「医療」というものに関わらない人は一人としていないだろう。にもかかわらず、わたしたちと「医療」の間には多くの「分断」が存在する。そしてその「分断」は、医療を受ける人にも医療を提供する人にも大きな不利益をもたらすことがある。今ある「分断」をやさしく埋めていくために、また、「分断」の存在そのものにやさしく目を向けるために必要なこととはーー。イベントの模様を連載でお届けする。1回目は、これからの時代の「医療情報」との向き合い方について市原真氏(札幌厚生病院病理診断科、病理医ヤンデル)が語る。(構成:高松夕佳/編集:田畑博文)
「医師の語り方」の功罪
がんはいまや日本人にとって最も身近な病気です。生涯でがんになる確率は、男性で65.5%(死亡率26.7%)、女性で51.2%(死亡率17.9%、いずれも2019年、2020年のデータに基づく。国立がん研究センターがん情報サービスより)。2人に1人はがんになる計算です。
なぜこんなにもがん患者が増えたのでしょう。がんの要因が増えたから? 違います。医療の発達により、がん以外の理由で死亡する人が減ったからです――
……と、医師が医療を語るにあたっては、こんな感じで複雑なデータに基づいたお話をするべきなのでしょう。でも、今日はむしろ、このような医師の語り方の功罪についての話をしたいと思います。
私が「SNS医療のカタチ」に参画する動機とも関係があります。
低解像度の情報は真実を伝えない
2019年に北海道のローカル番組「水曜どうでしょう」のディレクターさんと対談する機会がありました。北海道人の僕にとって、「水曜どうでしょう」は憧れの番組。その作り手とお話しできるのがうれしくてテンションが上がった僕は、対談中思わず「『水曜どうでしょう』は僕の青春でした」と言いました。
嘘は言っていませんよ。
ただ、ちょっと大げさだったかなあ、とも思います。
この言葉は、僕という存在の解像度をものすごく粗くして観察した、言ってみれば顔写真をアプリで加工してモザイクタイルのようにしてしまった言葉でした。おかげで、対談を聴きに集まった聴衆の方たちはワーッと盛り上がってくださり、良かったといえば良かったのですが、「本来の僕の青春」は、もっとたくさんの因子からなっていたはずです。
我々は、人の耳目を集めようとするとき、つい解像度を下げて、物事を雑に見てしまう――同じことは、科学にも言えるのではないかと思います。