体調面で不安が生じたときに、私たちはまずインターネットで検索し、病状について調べることが多いはずだ。しかし、ネットの情報は玉石混交。信用できる医療情報をいかに見極められるかが、ますます重要になってきている。『すばらしい人体』では、自分たちの体が持つすばらしい機能を解説しながら、誤解しがちな医療の知識についても解説している。膨大な医療情報とどう向き合うべきか。ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者の山本健人氏に詳しく聞いてみた。(取材・構成:真山知幸)
医学を学ぶ意義
――『すばらしい人体』が16万部と異例のベストセラーとなり、広い読者層から支持されています。医療従事者ではない人が医学の知識を身につける意味について、教えていただけますか。
山本健人(以下、山本):医学の知識があれば、病気を患っている人も含めて、他人への理解を深めることができます。病気に対する誤解や偏見の多くは、医学の正しい知識が欠けているがために、生まれているものです。
病気に対する間違えたマイナス感情を払拭できるのは、医学を学ぶ大きな意義の一つです。
またこれから高齢化が進めば進むほど、家族の誰かが病気になる場面が多くなります。そんなときに、正しい医学の知識があれば、大きく動揺せずに済みます。インターネット情報を始めとした、医学に関するデマに心を乱されることも防げるでしょう。
「医療に関わらない人」は少数派
――でも「医学を学ぶ」となると難しそうで、どうしても腰が重くなってしまいがちです。
山本:確かに専門性は高いのですが、入り口は身近なので、医学は非常に学びやすい学問です。医学が扱うのは人間の体ですから、今すぐに目で見たり、動きを確かめたりできるものですよね。
また、全く医療と関わらずに人生を終える人は極めて少数派です。医学は学問として自分の体で実感しやすく、かつ、敷居が低いということを、もっと広く知ってほしいと思います。
「誰もが病気になる」という前提を持つ
――本書がこれだけ売れていることを踏まえると「誰もが医学と向き合わないといけない時代だ」と、気づいてきているのかもしれません。いざ自分や家族が病気になれば、医学について関心を持たざるを得ませんしね。
山本:「誰もが病気になる」という前提を踏まえれば、医学を学ぶ重要性は理解してもらえるかと思います。今は多くの人が自分や身内が病に直面してから、インターネットで必死に調べ始めています。
しかし、それでは、正確な情報に辿り着くのが難しいです。本人も混乱していますから、どうしても自分が信じたい情報を得るために、偏った情報ばかり集めてしまいがちです。
いざというときに動じないためにも、普段から正しい医学情報にアクセスする方法を知っておくことが重要です。そんな思いから、私は日常的にSNSでエビデンスに基づいた医学情報の発信を行っています。
ネットの医療情報は玉石混交
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワーもうすぐ10万人。著書に16万部突破のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)など。
――病気になると、どうしても自分の信じたい情報を探してしまいますからね……。
山本:私は自分でサイト運営も行っていますが、「〇〇(病名) 手術せずに治す」というような、自分の願望をキーワードにして検索する人が非常に多いんですね。
気持ちはよくわかりますが、そういった検索だけしかしないと、正しい医療情報にたどり着くのは難しいでしょう。
インターネット上にあふれる医療情報は玉石混交なので、自分が納得するまで調べ続けることはやめましょう。インターネットで情報を得たい場合は、学会や公的機関が発信する一般向けサイトを利用するのがお勧めです。
私のサイトでもお勧めのサイトのリンク集(https://keiyouwhite.com/guideline-for-patients)を作っていますので、ぜひご覧いただければと思います。
――『すばらしい人体』では、誤解しがちな健康の常識や、教養として知っておきたい現代医療についても解説されています。一冊手元にあると、ちょっとした時間に医学の知識を身につけることができますね。
山本:正しい医療情報と接する習慣作りを普段から行っておけば、いざというときにパニックにならずに済みます。
その下地作りのための一冊としても、活用してもらえればと思います。