つらい勉強でも楽しくなる「最強の暗示」とは?

ラテン語こそ世界最高の教養である――。歴史、哲学、宗教のルーツがわかると大きな話題になっている『教養としての「ラテン語の授業」――古代ローマに学ぶリベラルアーツの源流』著者は、超難関試験を突破し、東アジアで初めてロタ・ロマーナ(バチカン裁判所)の弁護士になったハン・ドンイル氏。彼に貴重な特別インタビューを行った。超難関試験を突破したハン氏の考える「効率のいい勉強法」とは?(取材・構成/岡崎暢子)

人生を変えた父の言葉

――勉強の進め方で、よい方法があれば伺いたいのですが……?

ハン・ドンイルさん(以下、ハン) 韓国でもインタビューをたくさん受けていますが、もっとも多く尋ねられる質問ですね。この質問を聞くたびに、気が重くなります。皆、大変な思いをしながら勉強しているのだなと……実際、私もそうでしたからね。あまり秘訣やコツなどはありませんが、あえてひとつ申し上げるなら、私は勉強に取り掛かる前には必ず、語学の勉強から始めています。単語や熟語の勉強ですね、暗記です。

 急に勉強しようとしても、直前に起きた出来事などを考えてしまってなかなか集中できません。スポーツの前に柔軟体操やウォーミングアップをするのと同じで、頭や気持ちを勉強にシフトさせるのです。単純な暗記作業は気持ちの切り替えにちょうどよいと思っています。あくまでこれは私なりの方法ですが、試してみてもいいでしょう。

 勉強するというのは、自らを理解しようとする過程だと思います。自分の感情や体質に合ったやり方がどういうものなのか、考えながら、探しながら進めていくのです。行為自体は受験や試験のための勉強かもしれませんが、ひいては自分を知る、自分のための過程でもあるのです。

――勉強していると、自らの限界を感じてしまうときもあります。

ハン 2004年のことですが、私がロタ・ロマーナを志すと決めた時の周囲の反応は冷たいものでした。現地では「お前が?」と鼻で笑われ、韓国ではロタ・ロマーナが何かを知る人すらいなかった。私は心からロタ・ロマーナの弁護士になりたいと思っていましたが、そうした周囲の反応が怖くて口をつぐんでしまったことがありました。それでも、やりたいという気持ちが勝ったのは、「自分は絶対にやるのだ、できるのだ」という気持ちが後押ししてくれたからです。

勉強が面白くなる最強の暗示

ハン そんな経験から、私は学生たちにこう言っています。勉強で尻込みしそうなときは、「自分は天才である」と思いなさいと。「私はすばらしい天才だ」「私は天才だから目の前にある本の知識を全て頭の中に入れるのも簡単だ」と暗示をかけるのです。そうやって一日の勉強を終える。ただし、寝る前には自分が凡人であることを認めることです。事実を受け止め、謙虚に省察し、そしてまた明日を迎えるのです。

 人間、ひとりひとりに与えられている時間は決められているのではないでしょうか。生きる日数や使える時間も定められていると思っています。私はこの「定められた時間」というのが、必ずそれを満たしてこそ次の時間に進めるもので、慌てたり急いでも満たされるものではないように感じています。それに気付いてからは、日々、自分のすべきことをして自らの時間を満たしていこうと努めています。

 貧しい境遇に育った私は、幼い頃からできることとできないことを仕分けながら生きてきました。また、先天的な持病もあり、無理の利かない体だったことも輪をかけました。できないことに執着しないこと、できることに集中すること。そして自分の時間を満たしていくこと。こうして結果的に、毎日こつこつと着実に重ねていくという規則的な生活が私を作っていきました。

【大好評連載】
第1回 「お金があっても満たされない人」を救う3つの言葉
第2回 とてつもなく頭のいい人がやっている「最高の読書法」
第3回 世界一難しい!? バチカン裁判所のすごい採用試験
第4回 極貧生活からイタリア留学、人生を変えた「父のたった1つの教え」
第5回 「学びは感動から始まる」古代ギリシャ人のすごい思考法

ハン・ドンイル
韓国人初、東アジア初のロタ・ロマーナ(バチカン裁判所)の弁護士。ロタ・ロマーナが設立されて以来、700年の歴史上、930番目に宣誓した弁護人。

2001年にローマに留学し、法王庁立ラテラノ大学で2003年に教会法学修士号を最優秀で修了、2004年には同大学院で教会法学博士号を最優秀で取得。韓国とローマを行き来しながらイタリア法務法人で働き、その傍ら、西江大学でラテン語の講義を担当した。彼のラテン語講義は、他校の生徒や教授、一般人まで聴講に訪れるようになり、最高の名講義と評価された。その講義をまとめた本書は韓国で35万部以上売れ、ベストセラーとなった。
ラテン語を母語とする言語を使用している国々の歴史、文化、法律などに焦点を当て、「ラテン語の向こう側に見える世界」の面白さを幅広くとり上げている。ロタ・ロマーナの弁護士になるためには、ヨーロッパの歴史と同じくらい長い歴史を持つ教会法を深く理解するだけでなく、ヨーロッパ人でも習得が難しいラテン語はもちろん、その他ヨーロッパ言語もマスターしなければならない。加えて、ラテン語で進められる司法研修院3年課程も修了しなければならない。これらの課程をすべて終えたとしても、ロタ・ロマーナの弁護士試験の合格率は5~6%にすぎない。現在は翻訳や執筆を続けている。
著書に『法で読むヨーロッパ史』『カルペラテン語総合編(語学教材)』『カルペラテン語韓国語辞典』『ローマ法事典』『信じる人間に対して:ラテン語の授業2番目の時間』があり、『東方カトリック教会』『教父たちの聖書注解ローマ書』『教会法律用語辞典』などを韓国語に訳した。

つらい勉強でも楽しくなる「最強の暗示」とは?