相手の信頼を得るための
三つの具体的な方法

(1)空間の操作

 相手方との何げない雑談の場や会食時において、主導権を得るために、その場の空間を操作する。

 例えば、米国心理学者スティンザーによる「スティンザー効果」というものがある。あなたと対面に座る人物はあなたに敵対的であり、斜め前に座る人物は友好的であるという。

 また、座り方には視線の交錯による緊張も作用する。正面だと視線の逃げ場がなく、緊張が生まれてしまうが、L字型(相手が斜め前)であれば、互いに視線が交差しながらも正面からぶつかることがないため、緊張がほぐれ友好的な関係を演出できる。

 社長室ないしは役員への報告をイメージしてほしい。ほとんどが対面だろう。その場合、社長(役員)の正面と斜め前では、あなたはどちらのほうが報告しやすいだろうか。

 さらに、会食時の店選びも重要である。人間にも帰巣本能があり、自宅に近い場所であれば心理的に安心する傾向にある。こうした人間心理を利用し、相手の自宅に程よく近い会食場所を選ぶことで緊張をほぐすという手法もある。

 その他、相手との関係に応じた「距離の操作」や「温度の操作」もあるが、結局は相手にとって心地よい空間をつくり上げることが重要である。

(2)ミラーリング×声の操作

「ミラーリング」は心理学では一般的な手法で、相手の仕草や表情、話し方、行動をまねすることで、相手方に自身に似ていると思わせる手法を言う。

 しかし、諜報心理における「ミラーリング」は、一般的なミラーリングとは「深さ」が異なる。相手のまねをするのではなく、相手が大切にしているものを同じように大切に考え、相手に共感する立場を口で示すことで弱みや悩みに寄り添うという手法である。前述した家族の入院の例を思い出してほしい。

 さらに、家族の入院に際し、案ずる言葉を、声のトーンや声色を変えて感傷的に伝えるのだ。声のトーンは聴覚的情報において、さまざまな効果(=受け手の印象の操作)が可能となる。

 例えば、家族の入院のケースでは、「落ち着き、安心」を印象付けるために低めの声でゆっくりと話してみてほしい。

「ご家族の入院でご不安かと思いますが、私も元気のないあなたが心配になってしまいます。何かお手伝いできることがあれば、遠慮なくおっしゃってください」

 あなたの声のトーンから、相手は安心と優しさを感じ、自分の大切な家族を同じように大切に考えてくれているという喜びや安心に加え、家族の入院に対する不安を理解してくれたと思い、小さな信頼を寄せてくれるようになるのだ。

 ここで重要なのは、相手とその家族を本当に案ずることである。